昼すぎ、買い物に出た。いつも通りスーパーへ行って、いつも通りカゴを持って、何も考えずに歩く。レジ横の値札に「本日特売 卵128円」。──即決。こういう瞬間、人生の選択って意外とシンプルだなと思う。
外に出たら、空が妙に白くて、風が冷たい。ふと顔を上げたら、ちらほら雪。「え、今日そんな予報あった?」ってスマホを見るけど、天気アプリは無表情。なのに確かに降ってる。街灯の下で、舞うみたいに。
手に下げた袋の中では、卵がころころ鳴ってる。なんか、音まで冬っぽい。コートのポケットでスマホが震えたけど、手を出す気にならなかった。急ぐ理由もないし、雪を見ながら歩くのが、なんかいい。
帰り道、いつもの角を曲がると、誰かが雪を撮っていた。スマホを空に向けて、シャッターの音。あの一瞬を保存できるって、ちょっと羨ましい。でも、私はいいや。今日は記録じゃなくて、ただ眺めたい気分。
家に着くころには、雪は雨に変わってた。玄関を開けると、冷えた空気の中に卵の温もりが残ってる。「なんか、いい日だったな」と小声でつぶやいて、そのままコーヒーを淹れた。
小さな買い物と、少しの雪。それだけで、今日がちょっと記録に残る日になる。