「世界商人・魔法の国」 ◆ 少し前—— 少し時間を戻そう。 バルモラの大商人が、双極島に来た日。 ◆ 受付にて 港の受付。 グリーンは、いつも通り座っていた。 そこに——男が立った。 「おや、受付か」 高慢な声。 グリーンは、立ち上がった。 「これはこれは、バルモラの大商人様。  ようこそ双極島へ〜」 深々と頭を下げる。 いつもの陽気な調子だった。 大商人は、鼻で笑った。 「ふん。王のところに案内せよ」 「分かりました〜。  では、こちらへ〜」 グリーンは、大商人を城へと案内した。 ◆ 王の間——裏から 王への謁見が終わった後。 王の間の裏側。 薄暗い通路に、グリーンがいた。 壁に背を預けて、会話を聞いていた。 (……挨拶だけ、ねぇ〜) 嘘だ。 あの男が、ただの挨拶のために来るわけがない。 (何を狙ってる……) バルモラは、商業大陸。 金で動く。 そして——闘を持つ大陸。 奴隷取引。 暗殺。 裏工作。 表では笑顔で商売をし、裏では何でもやる。 あの奴隷たち——船から降りてきた者たちを思い出す。 あれは、ただの荷物じゃない。 戦力だ。 武装奴隷団。 なぜ、双極島に連れてきた? 売りに来たのか? それとも—— 「……やれやれだな〜」 グリーンは、小さく呟いた。 面倒なことになりそうだ。 ◆ グリーン、去る その夜。 港の桟橋。 グリーンは、海を見つめていた。 「アルダ軍が来て、バルモラの商人も来た」 独り言のように呟く。 「にぎやかになってきたねぇ〜」 サングラスを上げて、空を見上げる。 「……ちょっと出かけてくるか」 グリーンは、にっと笑った。 「商売のチャンスってやつだ〜」 そして——グリーンの姿は、港から消えた。 ◆ ファーニア大陸 ファーニア大陸。 魔法文明の中心地——世界でもっとも知識が集まる場所。 白い石造りの尖塔が、空に向かってそびえている。 緑の屋根、金の装飾。 街路には、浮遊する灯りが並んでいた。 空気が違う。 魔素の濃度が高いのか、肌がぴりぴりする。 街には、様々な者がいた。 緑と白のローブを纏った魔法使い。 杖を持った研究者たち。 書物を抱えた学生たち。 そして——魔道具を売る露店。 「いやぁ〜、綺麗だねぇ〜!」 グリーンは、街を歩いていた。 サングラス、ストライプのシャツ、短パン。 どう見ても——この国では浮いている格好。 だが、誰も気にしない。 ファーニアは、知識の国。 外見より中身を見る文化がある。 「おお〜、これいいねぇ!」 グリーンは、露店に近づいた。 自動で光る石。 温度を調整する器具。 水を精製する小さな装置。 「これ、いくら?」 「銀貨五枚だ」 「三枚にならない?」 「四枚だ」 「よし、買った〜!」 商人としての顔。 グリーンは、いくつかの魔道具を購入した。 「島で売れそうだな〜」 ◆ 裏路地 だが——グリーンの目的は、表通りだけではなかった。 白い尖塔の裏側。 狭い路地。 煉瓦の壁に苔が生えている。 「いい雰囲気だねぇ〜」 グリーンは、陽気に言った。 だが、周りの空気は違う。 ここは——ファーニアの闇の部分。 どんな国にも、光と影がある。 魔法の国にも——裏がある。 違法な魔道具の取引。 禁止された術式の研究。 そして——人を売り買いする者たち。 グリーンは、錆びた看板の酒場に入った。 中は薄暗かった。 煙草の煙。 酒の匂い。 そして——どこか危険な空気。 カウンターには、傷だらけの男たちが座っている。 奥のテーブルでは、フードを被った者たちが密談中。 グリーンは、平然とカウンターに座った。 「おっ、酒をくれ〜! なんでもいいぞ〜!」 店主が、怪訝な目を向けた。 「……見ない顔だな」 「旅の商人さ! いい話があるんだよ〜」 グリーンは、金貨を数枚、カウンターに置いた。 店主の目が、変わった。 「……何の話だ」 「双極島って知ってるかい?」 ◆ 闇商人との取引 しばらくして——奥のテーブル。 グリーンの向かいに、男が座っていた。 黒いローブ。 顔は見えない。 だが——声には、威圧感があった。 「……双極島の人間が、なぜここに」 「いやぁ〜、商売の話さ!」 グリーンは、杯を傾けた。 「最近、島がにぎやかでね〜。  アルダ軍が来たんだよ」 「……聞いている」 「軍隊長ってのが単独で挑戦してね。  南の領域——武の領域に、かなり奥まで進んだ」 男が、少し身を乗り出した。 「……どこまで行った」 「第一地点まで。  印を刻んで、帰ってきた」 「……ほう」 「強かったよ〜。  でもね——まだ先がある」 グリーンは、にやりと笑った。 「つまり——まだ誰も制覇してない。  一番乗りの席は、空いてるってわけさ」 男は、黙って聞いていた。 「アンタの顧客——裏の商人、賞金稼ぎ、ならず者——  そういう連中に、島の話を流してくれないか」 「……何が得だ」 「島に客が来れば、アンタにも分け前がある。  紹介料ってやつだ〜」 グリーンは、杯を空けた。 「島はね、法がないに等しいんだ。  来る者拒まず。何をやっても——島の責任じゃない」 男が、動いた。 「……いくらだ」 「あっはっは! 話が早いねぇ!」 ◆ 禁止術式の市場 翌朝。 グリーンは、別の裏路地を歩いていた。 ここは——禁止術式の闇市場。 魔導学院が禁じた魔法の取引。 呪いの術式。 召喚の秘術。 精神干渉の呪文。 危険だが——高値で売れる。 「へぇ〜、こんなものもあるんだね〜」 グリーンは、露店を見て回った。 呪われた短剣。 魂を封じる瓶。 禁断の魔導書。 「おじさん、これ何?」 「……人の夢に入り込む魔法書だ」 「面白いねぇ〜。いくら?」 「金貨十枚」 「高いな〜」 買う気はない。 だが——情報は集める。 ファーニアにも、こういう世界がある。 島に来る客の中には、こういう者もいるだろう。 「いい勉強になったな〜」 ◆ 魔導学院の酒場 昼過ぎ。 魔導学院——ファーニア大陸の誇り。 巨大な敷地に、白い建物が立ち並ぶ。 塔の上には、緑のルーン文字が光っている。 空には、浮遊する魔法陣。 学院の周辺には、学生たちが集まる酒場がある。 「おっ、にぎやかだねぇ〜!」 グリーンは、酒場に入った。 若い魔法使いたちで賑わっている。 青と白のローブ——上級生の証。 杖を腰に差した者もいる。 知識と魔法への情熱が、この国の若者たちを動かしている。 グリーンは、適当なテーブルに近づいた。 「ここ、座っていいかい?」 四人の若者が、顔を上げた。 青と白のローブ——三年生だ。 リーダー格の女性——栗色の長い髪、緑の瞳。 名はリーシア。成績優秀だが、負けず嫌い。 金髪で眼鏡の男——理論派だが口が悪い。 名はマルク。 赤毛でがっしりした体格の男——すぐ行動したがる実践派。 名はトール。 黒髪ショートの小柄な女性——好奇心旺盛。 名はニナ。 「あ、どうぞ……」 リーシアが言った。 「ありがとう〜!」 グリーンは、どかっと座った。 「いやぁ、旅の商人なんだけど——  君たち、学院の生徒?」 「三年生です。何か?」 マルクが、少し警戒した目で言った。 「おお〜、優秀な学年だねぇ!」 グリーンは、酒を頼んだ。 「最近、面白い話を聞いたんだよ〜」 「面白い話?」 「双極島って知ってる?」 若者たちの目が、光った。 「知ってます! 神の戦争があった場所!」 「北は魔神の領域……魔法研究の聖地とも言われてます」 リーシアが言った。 「そうそう!」 グリーンは、大きく頷いた。 「で、最近——アルダ軍がそこに挑戦したんだ」 「えっ……」 「軍隊長ってのが単独で南の領域に行ってね。  第一地点まで到達した」 「すごい……」 「でもね——」 グリーンは、リーシアを見た。 「その軍隊長、魔法は使えないんだよ」 「……魔法なしで?」 「そう。純粋な武力だけ。  でも、そこまで行けた」 グリーンは、にっと笑った。 「魔法使いが本気で行けば——  もっと奥まで行けるんじゃない?」 若者たちの目が、熱くなった。 「俺たちでも……」 トールが拳を握った。 「北の領域——魔神の領域は、まだ誰も挑戦してない。  一番乗りは、君たちかもしれないよ?」 リーシアの目が、輝いた。 「先輩たちにできなかったことを、私たちがやる——  面白いじゃない」 「座学より現場だろ! 行こうぜ!」 トールが立ち上がりかけた。 「まあ待て、情報を集めてからだ」 マルクが制した。 「禁止されてる場所ほど見たくなるよね〜」 ニナが、目を輝かせて言った。 「カッコいいね〜! 君たち、度胸あるね〜!」 グリーンは、杯を掲げた。 「——島、来てみなよ〜。案内するぜ〜!」 ◆ 女性魔法研究者 夕方。 学院近くの高級酒場。 グリーンは、カウンターに座っていた。 隣には——女性が座っていた。 黒髪のショートカット。 鋭い目。 年齢は三十前後。 青のローブ——研究員の証。 名はセイラ・ヴォルン。 魔導学院の研究員。 禁止術式の専門家だった。 「……あなた、変わった人ね」 セイラが言った。 「この国で、その格好」 「あっはっは! よく言われる〜!」 グリーンは、笑った。 「でもね、中身で勝負ってやつさ」 「……ふうん」 セイラは、杯を傾けた。 「双極島の案内人って聞いたけど」 「そうそう! よく知ってるね〜」 「噂は早いのよ、この国は」 セイラは、グリーンを見た。 「……北の領域に、何があるの?」 「魔神の領域?」 「そう。魔法研究者なら、誰でも知りたがる場所」 グリーンは、少し考えた。 「正直——俺も知らない」 「……」 「誰も奥まで行ったことがないからね。  でも、噂はある」 「どんな噂?」 グリーンは、声を低くした。 「魔神の血が染み込んだ場所。  魔素の濃度が、他のどこよりも高い。  そこで魔法を使えば——力が何倍にもなるって話」 セイラの目が、光った。 「……面白いわね」 「でしょう?」 「研究対象としては、最高の場所かもしれない」 グリーンは、にっと笑った。 「行ってみない? 案内するよ〜」 セイラは、少し考えた。 「……検討するわ」 「いい返事、待ってるね〜!」 ◆ 夜の酒場 夜。 ファーニアの繁華街。 魔法の灯りが、街を照らしている。 緑と金の光が、幻想的な雰囲気を作り出す。 グリーンは、大きな酒場に入った。 「おお〜! にぎやかだねぇ〜!」 店内は、様々な者で賑わっていた。 魔法使い、商人、旅人、冒険者—— そして——踊り子たち。 ステージでは、女性たちが踊っている。 魔法を使った演出——火花が散り、水が舞う。 「いいねぇ〜、いいねぇ〜!」 グリーンは、カウンターに座った。 「酒をくれ〜! 一番いいやつ〜!」 隣に座っていた男が、グリーンを見た。 若い男。 白のローブ——下級生時代のもの。だが、破れている。 目には、野心と、何かを見返してやりたいという感情がある。 「……あんた、どこから来た」 「双極島さ〜」 「双極島……」 男の目が、光った。 「神の戦争があった場所か」 「そうそう! 知ってるね〜」 グリーンは、酒を飲んだ。 「君は?」 「俺は……冒険者だ」 「冒険者! いいねぇ〜!」 男は——名をカルト・ゼイン。 二十歳。 魔導学院を中退し、冒険者になった若者だった。 「学院を辞めて、外の世界を見て回ってる」 「へぇ〜、度胸あるね〜」 「魔法だけじゃ足りない。  実戦で鍛えなきゃ、本当の強さは分からない」 グリーンは、にっと笑った。 「いいこと言うね〜」 「双極島——行ってみたいと思ってたんだ」 「おお! 嬉しいねぇ〜!」 グリーンは、カルトの肩を叩いた。 「じゃあ、教えてやるよ。  最近、アルダ軍が島に挑戦したんだ」 「聞いた。軍隊長が単独で——」 「そう。第一地点まで到達した。  でもね——まだ先がある」 グリーンは、声を低くした。 「あの軍隊長、強かったよ。  でも——君なら、もっと先に行けるかもしれない」 カルトの目が、熱くなった。 「……本当か」 「武だけで行けた場所なら、魔法があればもっと先に——  そういう理屈さ」 「……」 「島、来てみなよ。  君みたいな若者を待ってるぜ〜」 カルトは、拳を握った。 「……行く。必ず行く」 「いい返事だ〜!」 ◆ 高官との密会 深夜。 高級料亭。 グリーンは、個室にいた。 向かいには——老人が座っていた。 緑の刺繍が入った高級なローブ。 白髪。 威厳のある顔。 ファーニア魔導研究院の重鎮——レクト・マーシン。 「……グリーン殿、久しぶりだな」 「いやぁ〜、お久しぶり〜!」 グリーンは、いつもの調子だった。 「元気そうで何より! 顔色いいねぇ〜!」 「……相変わらず掴みどころがない男だ」 老人は、苦笑した。 「で、今日は何の用だ」 「商売の話さ〜」 グリーンは、杯を傾けた。 「双極島、最近にぎやかでね」 「……アルダ軍が動いたと聞いた」 「情報早いねぇ〜! さすが」 グリーンは、頷いた。 「軍隊長が単独で南の領域に挑戦した。  第一地点まで到達したよ」 老人の目が、細くなった。 「……そこまで行ったか」 「まあ、武人はそっちが得意だからね〜」 グリーンは、何気なく言った。 「——でも、北はまだ誰も」 老人は、黙った。 「魔神の領域——魔法使いの聖地とも言われてるだろ?  でも、誰も本気で挑戦してないんだよね〜」 グリーンは、老人を見た。 「アルダが南で成果を出した。  ファーニアが北に行かなくていいのかな〜?」 老人の指が、杯の縁をなぞった。 「……挑発しているのか」 「いやいや〜、ただの世間話!」 グリーンは、笑った。 「でもね——」 声を低くした。 「バルモラの商人も動き始めてる。  あいつらは金で何でも買う。  強い冒険者を雇って、島に送り込むかもしれない」 老人の目が、鋭くなった。 「……バルモラが」 「そうそう。  ファーニアとバルモラ、どっちが先に成果を出すか——  世界が見てるよ?」 老人は、しばらく考えていた。 「……検討しよう」 「よろしくね〜!」 ◆ 収穫 翌日。 グリーンは、ファーニア大陸を離れる準備をしていた。 荷物は増えていた。 ・自動照明の魔道具 ・温度調整器具 ・水精製装置 ・珍しい薬草 ・魔法書の写本(合法なもの) 「いい買い物だったな〜」 そして——情報も集まった。 ・闇商人との取引成立 ・若い魔法使いたちへの煽り ・研究者セイラへの誘い ・冒険者カルトへの焚きつけ ・高官レクトへの提案 「ファーニアからは、何人か来そうだな〜」 グリーンは、満足げに笑った。 ◆ 次の目的地 海が見える丘。 グリーンは、遠くを見つめていた。 「次は——ステリア諸島だな」 島国連合。 様々な種族が暮らす場所。 実力主義の世界。 「あっちは、また違う客がいるはずだ〜」 グリーンは、にっと笑った。 「楽しみだねぇ!」 ——第13話 終わり——