「世界商人・島国連合」 ◆ ステリア諸島 ステリア諸島。 複数の島国からなる連合体——二十以上の島が、ゆるやかに繋がっている。 気候も文化も、島ごとに違う。 熱帯の島もあれば、寒冷な島もある。 戦士の島もあれば、商人の島もある。 共通点は——実力主義。 腕が立てば、出自は問わない。 結果を出せば、認められる。 弱ければ——淘汰される。 グリーンは、最大の港町に立っていた。 「おお〜! 活気があるねぇ!」 港には、様々な種族がいた。 人間。 獣人——犬系、猫系、狼系、様々な動物の特徴を持つ者たち。 角を持つ者——鬼人、竜人。 光る肌の者——精霊の血を引く者。 そして——見たこともない種族。 「面白いところだ〜」 ◆ 港町の賑わい 港町は、どこよりもにぎやかだった。 様々な言語が飛び交う。 様々な料理の匂いが漂う。 様々な音楽が響く。 グリーンは、港を歩き回った。 「いいねぇ〜、いいねぇ〜!」 露店が並んでいる。 珍しい食材——熱帯の果物、寒冷地の魚、毒を持つ貝。 工芸品——貝殻のアクセサリー、骨の彫刻、珊瑚の装飾品。 武器——変わった形の剣、独特の弓、投げナイフ。 「おお〜、これいいね〜!」 グリーンは、いくつかの品を購入した。 「島で売れそうだな〜」 そして——酒場を見つけた。 「おっ、あそこにしよう〜!」 ◆ 女戦士との出会い 港の酒場。 様々な種族が、酒を飲んでいる。 獣人が笑い、鬼人が歌い、人間が踊っている。 にぎやかで、開放的な空気。 ステリアらしい酒場だった。 グリーンは、カウンターに座った。 「酒をくれ〜! 強いやつ〜!」 隣に——女性が座っていた。 赤い髪を高く結い上げている。 鍛え上げられた体。 革の鎧——動きやすさを重視した装備。 腰には、二本の短剣。 女戦士だった。 「……あんた、見ない顔だね」 女性が、グリーンを見た。 褐色の肌。 鋭い目。 唇には、小さな傷。 年齢は二十五くらい。 名はリラ・サントス。 ステリア諸島で名の知れた傭兵だった。 「旅の商人さ〜!」 グリーンは、陽気に答えた。 「双極島で案内人もやってるんだよ」 「双極島……」 リラの目が、光った。 「神の戦争があった場所か」 「そうそう! 知ってるね〜」 「傭兵やってれば、嫌でも聞く」 リラは、杯を傾けた。 「あそこに行くやつは、みんな帰ってこない——って噂だ」 「そんなことないよ〜」 グリーンは、笑った。 「最近、アルダ軍が挑戦したんだけど——  軍隊長が単独で南の領域に行って、帰ってきた」 「……帰ってきた?」 「第一地点まで到達して、印を刻んで帰ってきた。  傷だらけだったけどね〜」 リラは、少し身を乗り出した。 「……その軍隊長、強いのか」 「強いよ〜。  でも——」 グリーンは、リラを見た。 「君なら、同じくらい行けるかもしれないね」 「……なぜそう思う」 「見れば分かるさ〜。  その鍛え方、その目——本物の戦士だ」 リラは、少し笑った。 「お世辞がうまいね、商人さん」 「お世辞じゃないよ〜」 グリーンは、杯を掲げた。 「島、来てみなよ。  腕試しの相手には困らないぜ〜」 リラは、考えていた。 「……考えとく」 「いい返事、待ってるね〜!」 ◆ 飲み比べ 「おい、商人!」 リラが言った。 「飲み比べだ」 「えっ?」 「あんたの話、信じるかどうか——飲んで決める」 グリーンは、にっと笑った。 「いいねぇ〜! 受けて立つよ〜!」 店主が、巨大な杯を二つ持ってきた。 「ステリア流——最強の酒だ」 「おお〜、楽しみだな〜!」 二人は、同時に杯を空けた。 そして——二杯目。 三杯目。 四杯目—— 「ぐっ……!」 リラが、顔をしかめた。 「……あんた、強いね」 「あっはっは! 商売で鍛えたからね〜!」 グリーンは、平然としていた。 五杯目—— 「……参った」 リラが、カウンターに突っ伏した。 「あんたの勝ちだ……」 「いやぁ〜、いい勝負だったよ〜!」 グリーンは、リラの背中を叩いた。 「で、信じてくれる?」 「……信じる」 リラは、顔を上げた。 「島……行ってやる」 「おお! 嬉しいねぇ〜!」 ◆ ツインボーン 翌日。 別の島。 グリーンは、港を歩いていた。 そこで——目が止まった。 白銀の髪。 青紫がかった肌——光沢がある。 異色の瞳——左右で微妙に色が違う。 ツインボーン。 ステリア諸島の特殊種族。 血縁関係はないが、双子のように似た姿で生まれる。 常にペアで行動し、一人が攻撃、一人が魔法補助を担当する。 二人組が、並んで歩いている。 手を繋いでいる。 グリーンは、近づいた。 「やあやあ! ツインボーンのお二人さん!」 二人が、振り返った。 「……誰だ」 一人は、剣を腰に差している——攻撃担当。 もう一人は、杖を持っている——魔法担当。 「旅の商人さ! ちょっと話を聞いてくれない?」 二人は、互いに目を合わせた。 言葉を交わさずに——何かを通じ合わせている。 心が繋がっているのだ。 「……良いだろう」 「ありがとう〜!」 グリーンは、二人を酒場へ誘った。 ◆ ツインボーンとの会話 酒場の中。 二人のツインボーンが、グリーンの向かいに座っていた。 剣を持つ方——名はレイン。 杖を持つ方——名はシエル。 「俺は商人でね、双極島ってところで案内人もやってるんだ」 「双極島……」 「聞いたことある?」 「……神の戦争があった場所だ」 レインが答えた。 「そうそう!」 グリーンは、頷いた。 「で、最近そこがにぎやかなんだよ。  アルダ軍が挑戦に来てね——」 「……軍隊長が単独で行った話か」 シエルが言った。 「もう聞いてるんだね〜! 情報早いね〜!」 「我々は、常に情報を共有している」 レインとシエルが、同時に言った。 「すごいね〜」 グリーンは、感心した。 「で、君たちは——武と魔法、両方使えるんだろう?」 「……ああ」 「一人が攻撃、一人が魔法補助——  そういう連携戦法」 「我々の戦い方だ」 グリーンは、身を乗り出した。 「——双極島は、武の領域と魔の領域、両方あるんだ。  武だけの者は南しか行けない。  魔法だけの者は北しか行けない。  でも——両方使える者なら?」 レインとシエルが、目を見合わせた。 「……どちらの領域にも行ける」 「そう! 君たちこそ、島の覇者にふさわしいかもね〜!」 グリーンは、杯を掲げた。 「——来てみなよ。案内するぜ〜!」 レインとシエルは、互いに頷いた。 「……検討する」 「いい返事だ〜!」 ◆ 古豪の冒険者 夕方。 別の島——寒冷な気候の島。 グリーンは、店を見回すと陽気に声を上げた。 「オッ!いたいた〜伝説さ〜ん!」 カウンターの老人を目指してそのまま歩み寄ろうとすると、 奥のテーブルに控えていた数人の若い男たちが立ち上がり、進路を塞ぐように立った。 ゴルドを慕う若い冒険者たちだろう。 「おい、止まれ。ここは今、俺たちの先生の貸し切りみたいなもんだ。余所者は他へ行け」 一人がグリーンの胸元に手をかけようとした、その時。 「……やめておけ。お前たちでは相手にならん」 低く、枯れているが力強い声がカウンターから響いた。 男たちが驚いて振り返る。 白髪の老人が、片方の袖を空に向けたまま、静かに杯を置いていた。 傷だらけの顔には、かつての栄光と、それを超える壮絶な過去が刻まれている。 名はゴルド・ルーン。ステリア諸島最強と呼ばれた、生ける伝説。 「しかし、ゴルド先生! こんなふざけた格好の男が……」 「聞こえなかったか? 死にたくなければ大人しく座っていろ」 ゴルドの言葉に、若者たちは顔を青くして引き下がった。 彼らには分からないのだ。目の前の男から漂う、底の知れない違和感の正体が。 グリーンは、何事もなかったかのようににこにこと笑いながら、ゴルドの隣に座った。 「やあやあ、久しぶりだねぇ〜伝説さん! 元気だった?」 老人が、ゆっくりと顔を上げた。 濁りのない、鋭い眼光。 「……グリーンか。相変わらず、そのふざけた格好だな」 「あっはっは! これがお気に入りなのさ〜!」 グリーンは、店主に指を二本立てて酒を頼んだ。 「で、どうだい? 最近の調子は? 腕はなまってないかい? あ、腕がないのか」 「……死に損ないの老兵に聞くことか。相変わらず舐めたやつめ……」 ゴルドは、呆れたように、だがどこか懐かしそうに言った。 「実はね、面白い話があるんだよ〜」 グリーンは、声を低くした。 「ファーニアの重鎮——レクト・マーシンが、若いのを連れて双極島に現れるって話だよ〜」 その瞬間。 ゴルドの周りの空気が、一変した。 目に見えるほどの「闘気」が、老兵の体から溢れ出す。 酒場全体の温度が一段上がったかのような、凄まじいプレッシャー。 店主に緊張が走り、奥の客が思わず立ち上がる。 「……レクトか」 ゴルドの片目が、カッと見開かれた。 その瞳には、かつての「最強」の片鱗が煌めいていた。 「所詮、魔法など遊戯だ。あ奴、またあのような玩具で島を荒らしに来るのか」 「おやおや、やっぱり仲が悪いねぇ〜」 グリーンは、平然と酒を啜った。 「レクトは、北の『魔の領域』を自分たちの聖地だと言い張ってるよ。  このままじゃ、ステリアの戦士が魔法使いの後塵を拝することになるねぇ〜」 「……ふん」 ゴルドの闘気が、さらに激しく渦巻いた。 「俺が奥まで行ったとき……『南の柱』を超えた先は、重力さえもが武を試してきた。  魔素の嵐の中では、魔法など不純物でしかない。  真に己を鍛えた者だけが、あそこを通れるのだ」 「おお〜! さすが伝説の帰還者! 言うことが違うねぇ!」 「中間地点までだ……。  誰も辿り着けなかったからこそ伝説。だが……俺は知っている。  あそこから先は、地獄だ」 ゴルドは、片腕の付け根を強く握った。 「……だが、レクトには負けん。  ステリアの若者に、魔法など必要ないことを証明してやる」 グリーンは、にっと笑った。 「いい顔だねぇ、伝説さん!  島に来なよ。案内するぜ〜!」 ゴルドは、しばらくグリーンの顔を見つめた後、フッと笑った。 「……お前の案内は、いつも高くつく。  だが——面白い。若者の首根っこを掴んで、連れて行ってやろう」 「いい返事だ〜!」 ◆ 部族長との酒盛り 夜。 別の島——戦士の島。 部族長の集会所——大きな木造の建物。 中央には、焚き火が燃えている。 壁には、武器や戦利品が飾られている。 戦士たちが、輪になって座っている。 グリーンは、上座に招かれていた。 周りには、部族の戦士たち。 巨大な者もいれば、小柄だが鋭い目の者もいる。 獣人、鬼人、人間——様々な種族が混在している。 「がっはっは! 飲め飲め!」 部族長——体格のいい老人が、豪快に笑った。 顔には戦いの傷。 腕は丸太のように太い。 獣人——狼の血を引いているようだ。 名はヴォルグ・ハウル。 「鉄の牙」の異名を持つ、伝説の戦士。 「お前、いい男だな! 話が分かる!」 「いやぁ〜、部族長こそ! 器がでかいねぇ〜!」 グリーンは、巨大な杯を空けた。 「うおお! 飲むな!」 「負けてられないからね〜!」 酒盛りは、深夜まで続いた。 そして—— 「……で、双極島か」 ヴォルグが、静かに言った。 「ああ〜、そうそう」 グリーンは、酔っているように見えた。 だが——目は鋭かった。 「アルダ軍が挑戦した。  軍隊長が第一地点まで行った」 「……聞いている」 「ファーニアも動き始めてる。  魔法使いたちが、北の領域を狙ってる」 ヴォルグの目が、光った。 「……魔法使いどもがか」 「うん。大陸間の競争が始まってるんだ」 グリーンは、ヴォルグを見た。 「ステリアはどうする?  アルダやファーニアに遅れを取っていいのかい?」 ヴォルグは、拳を握った。 「……ステリアの戦士は、誰にも負けん」 「だろうね〜!」 グリーンは、笑った。 「若い連中を送ってよ。  ステリアの名を世界に知らしめるチャンスだ」 ヴォルグは、豪快に笑った。 「よし! うちの若い連中を送る!  お前が案内しろ!」 「もちろん〜! 任せてくれ〜!」 ◆ 夜の港町 深夜。 港町の繁華街。 グリーンは、にぎやかな通りを歩いていた。 様々な店が並んでいる。 酒場。 賭博場。 踊り子の店。 夜通し営業する食堂。 「いいねぇ〜、活気があるねぇ〜!」 グリーンは、ある店に入った。 踊り子の店——様々な種族の女性たちが踊っている。 獣人の踊り子——猫の耳と尻尾を持つ女性。 鬼人の踊り子——小さな角を持つ女性。 エルフ系の踊り子——長い耳を持つ女性。 「おお〜、綺麗だねぇ〜!」 グリーンは、カウンターに座った。 「酒をくれ〜!」 隣に——女性が座ってきた。 「あら、お客さん?」 青い髪——珍しい色。 尖った耳——エルフの血を引いている。 肌は白く、透き通るよう。 名はミラ・フロート。 この店の人気踊り子だった。 「旅の商人さ〜!」 「商人さん? 珍しいわね、この店に」 「いやぁ〜、にぎやかなところが好きでね〜!」 ミラは、にっと笑った。 「で、どこから来たの?」 「双極島さ〜」 ミラの目が、光った。 「双極島……聞いたことある」 「本当? 嬉しいねぇ〜!」 「神の戦争があった場所でしょ?  冒険者がいっぱい行くって」 「そうそう!」 グリーンは、酒を飲んだ。 「最近、アルダ軍が挑戦したんだよ。  軍隊長が単独で——」 「ああ、その話!」 ミラが、身を乗り出した。 「お客さんたちが話してたわ。  すごい人がいるって」 「情報早いねぇ〜」 「この商売、耳が命だから」 ミラは、にっと笑った。 「……で、あなたは何しに来たの?」 「商売さ〜。島に客を呼びたいんだよ」 「なるほどね〜」 ミラは、考えていた。 「……私も、冒険者だったのよ」 「えっ?」 「昔はね。今は引退したけど」 「どうして辞めたの?」 「怪我。足を傷めて、前みたいに動けなくなった」 ミラは、少し寂しそうに笑った。 「でも——冒険の話を聞くのは好き」 グリーンは、にっと笑った。 「いい話があるよ〜」 「何?」 「島に来なよ。  戦わなくても、やれることはいっぱいある。  案内人とか、情報屋とか——」 ミラの目が、光った。 「……それ、本当?」 「本当本当〜。  君みたいな耳がいい人、島で重宝されるよ」 ミラは、考えていた。 「……考えとくわ」 「いい返事、待ってるね〜!」 ◆ 裏社会 翌日。 別の島。 ここは——ステリア諸島の影の部分。 港の裏通り。 汚れた建物。 危険な目をした者たち。 密輸。 賞金稼ぎ。 傭兵。 そういう者たちが集まる場所。 グリーンは、薄暗い酒場に入った。 「おっ、いい雰囲気だねぇ〜」 店内は静まり返った。 危険な目が、グリーンを見る。 様々な種族——傷だらけの人間、牙を見せる獣人、角を光らせる鬼人。 だが——グリーンは、平然と歩いた。 カウンターに座る。 金貨を数枚、置く。 「酒をくれ。あと——ここのボスに会いたい」 店主が、じろりとグリーンを見た。 「……何者だ」 「商人さ。いい話がある」 しばらくして—— 奥から、男が現れた。 巨大な体——獣人のようだが、角もある。 半獣半鬼——混血種。 顔には、大きな傷。 片目が潰れている。 名はドルク・シャドウ。 ステリア諸島の裏社会を仕切る男。 「……お前か。話があるってのは」 「やあやあ! ボスさん!」 グリーンは、陽気に手を振った。 「いい話があるんだよ〜」 ドルクは、グリーンの向かいに座った。 「双極島って知ってる?」 「……知っている」 「でね——最近、そこがにぎやかなんだ。  アルダ軍が来て、バルモラの商人も来て——  大陸間の競争が始まってる」 「それで?」 「お前さんの商売にも、関係ある話さ」 グリーンは、身を乗り出した。 「島にはね、法がないに等しいんだ。  来る者拒まず。何をやっても——島の責任じゃない」 ドルクの目が、光った。 「……続けろ」 「傭兵、賞金稼ぎ、密輸業者——  そういう連中が、腕を試せる場所だ。  島を拠点にすれば、商売も広がる」 「……お前の目的は何だ」 「客が増えれば、島が栄える。  島が栄えれば、お前さんの商売も広がる。  ——Win-Winってやつさ〜」 ドルクは、低く笑った。 「……面白い話だ」 「だろう〜?」 グリーンは、杯を掲げた。 「取引成立だ〜!」 ◆ 収穫 ステリア諸島を離れる前—— グリーンの荷物は、さらに増えていた。 ・珍しい食材——熱帯の果物、寒冷地の魚 ・工芸品——貝殻のアクセサリー、骨の彫刻 ・希少な薬草——島でしか採れない植物 ・武器の設計図——ステリア独自の武器 「いい買い物だったな〜」 そして——人脈も広がった。 ・女戦士リラ——リラ・サントス ・ツインボーン——レインとシエル ・古豪の冒険者——ゴルド・ルーン ・部族長——ヴォルグ・ハウル ・情報通の踊り子——ミラ・フロート ・裏社会のボス——ドルク・シャドウ 「ステリアからは、いい人材が来そうだな〜」 グリーンは、満足げに笑った。 ◆ 次の目的地 海が見える丘。 グリーンは、遠くを見つめていた。 「次は——イグナ大陸だな」 火山の大陸。 武神派と魔神派が争う、戦乱の地。 「あっちは、また違う客がいるはずだ〜」 グリーンは、にっと笑った。 「楽しみだねぇ!」 ——第14話 終わり——