「世界商人・火の大陸」 ◆ イグナ大陸 イグナ大陸。 赤い大地が広がっていた。 遠くには、煙を吐く火山——いくつもの山が、炎を噴き上げている。 空には、灰が舞っている。 地面からは、熱気が立ち上る。 ここは——火と鉄の大陸。 鍛冶技術が最高峰。 武器職人、魔具職人が集まる場所。 そして—— 「武神派と魔神派……」 グリーンは、呟いた。 この大陸は、二つに分かれている。 武神派——純粋な肉体の強さと闘気を重視する者たち。 赤い肌、溶岩のような体、人間離れした筋肉。 魔法を嫌い、肉体と武器のみで戦う。 魔神派——闘気と魔法を組み合わせるハイブリッド志向の者たち。 緑の血管が体に浮かぶ、知的で冷静な者たち。 魔法と武器を融合させ、高次の力を追求する。 両者は、争い続けている。 内戦状態。 どちらが正しいか——決着はついていない。 「面白いところだねぇ〜」 グリーンは、にっと笑った。 「両方に挨拶しに行くか〜」 ◆ 熱気の中を歩く イグナ大陸の街道。 まず目についたのは——熱さだった。 地面から蒸気が噴き出す。 岩が赤く焼けている場所もある。 空気が揺らめいている。 普通の人間なら、歩くだけで体力を消耗する。 だが——グリーンは、平然と歩いていた。 サングラス、ストライプのシャツ、短パン。 いつもの格好。 「いやぁ〜、あったかいねぇ〜!」 道中、様々な者とすれ違う。 武神派の戦士——赤い肌、巨大な体。 魔神派の魔法戦士——緑の光を纏う者。 鍛冶職人——煤で汚れた顔。 商人——熱に強い服装で荷物を運ぶ。 「人も多いねぇ〜」 グリーンは、まず武神派の領域に向かった。 ◆ 武神派の領域 赤い岩山の麓。 巨大な砦が見えた。 黒い石と鉄で作られた、荒々しい建造物。 周囲には、溶岩の川が流れている。 熱気が、肌を焼く。 グリーンは、その門の前に立った。 背中には——巨大な樽。 酒樽だった。 ステリアで仕入れた、最強の酒。 「おーい! 客だぞ〜!」 グリーンは、陽気に叫んだ。 門番が、じろりとグリーンを見た。 巨大な体——人間の二倍はある。 赤みがかった肌。 体表には、溶岩のような亀裂が走っている。 闘気で肉体が強化されている証だ。 「……何者だ」 「旅の商人さ! 酒を持ってきた!」 グリーンは、樽を下ろした。 どん、と重い音。 「イグナ大陸に来たらさ、武神派の戦士たちと飲まなきゃ損だろう〜?  ——大樽一本、土産だ!」 門番は、樽を見た。 そして——匂いを嗅いだ。 「……いい匂いだ」 「ステリア諸島の最強の酒さ〜!  部族長にも褒められた品だよ〜!」 門番は、しばらく考えていた。 そして—— にやりと笑った。 「……気に入った。入れ」 ◆ 武神派との酒盛り 砦の中。 大広間。 巨大な戦士たちが、ずらりと並んでいた。 赤い肌。 溶岩のような体。 人間離れした筋肉——腕は丸太より太い。 鎧はほとんど着ていない。 腰布と肩当て程度。 肉体そのものが鎧だからだ。 そして——酒樽を囲んでいる。 「がっはっは! うまい酒だ!」 「この商人、いい奴だな!」 「もう一杯!」 グリーンは、巨大な杯を空けていた。 「いやぁ〜、武神派の戦士はすごいねぇ〜!  この迫力! この筋肉!」 「当然だ! 俺たちは肉体至上主義!  魔法なんぞ邪道だ!」 「かっこいいねぇ〜!」 武神派の長——巨大な男が、グリーンの前に座った。 名はボルガ・フレイム。 「炎の拳」の異名を持つ、武神派の幹部。 体高は二メートルを超え、体表には炎のような亀裂が走っている。 「お前、面白い男だな」 ボルガが言った。 「あっはっは! よく言われる〜!」 「この酒を持ってくるだけの度胸がある。  話を聞いてやろう」 グリーンは、にっと笑った。 「ありがとう〜!」 そして——何気なく切り出した。 「ところでさ〜、双極島って知ってる?」 ボルガの目が、光った。 「……神の戦争があった場所か」 「そうそう!」 「南の領域——武神が陣取った地」 「知ってるねぇ〜! さすが!」 グリーンは、杯を傾けた。 「で、最近——アルダ軍がそこに挑戦したんだよ」 「……聞いている」 「軍隊長ってのが単独で行ってね。  第一地点まで到達した」 ボルガは、腕を組んだ。 「……アルダの軍人如きが」 「強かったよ〜。でも——まだ先がある」 グリーンは、声を低くした。 「——で、魔神派の連中も狙ってるって噂があるんだよね〜」 ボルガの目が、鋭くなった。 「何だと……」 「双極島に遠征を計画してるとか——」 「あの魔法かぶれどもが……!」 ボルガは、拳を握った。 「武神の領域は、俺たちのものだ!  魔神派に荒らされてたまるか!」 グリーンは、杯を掲げた。 「——先に行けばいいんじゃない?  武神派が双極島で成果を出せば、魔神派の鼻を明かせるよ〜」 ボルガは、立ち上がった。 「よし! 遠征隊を編成する!  お前が案内しろ!」 「もちろん〜! 任せてくれ〜!」 ◆ 若い挑戦者 翌日。 武神派の訓練場。 グリーンは、若い戦士たちと話していた。 三人の若者——いずれも二十代前半。 赤い肌、鍛え上げられた体。 だが、まだ若い。 リーダー格の男——名はオーガ・クラッシュ。 額に小さな角がある。 「若き破壊者」の異名を持つ、次世代の有望株。 野心家——名声と権力を求めている。 「双極島か……」 オーガが言った。 「行ってみたいと思ってたんだ」 「おお! 嬉しいねぇ〜!」 グリーンは、笑った。 「でも——先輩たちに勝てるか……」 仲間の一人が言った。 「勝てる」 オーガが、拳を握った。 「俺が武神派の新しい顔になる。  先輩たちを超えて、俺が名を上げる」 グリーンは、オーガの肩を叩いた。 「若さは武器だ。  恐れを知らない、伸びしろがある」 「……」 「それに——」 グリーンは、声を低くした。 「アルダの軍隊長は、三十代だ。  君たちより年上だけど——君たちが勝てないとは限らない」 オーガの目が、熱くなった。 「……当然だ。俺たちが勝つ」 「本当さ〜。  島に来てみなよ。  力を試す機会は、いくらでもある」 オーガは、仲間と目を見合わせた。 そして——頷いた。 「……行く。俺たちで行く」 「いい返事だ〜!」 ◆ 武器職人街 昼過ぎ。 グリーンは、イグナ大陸の鍛冶街を歩いていた。 赤い煙が立ち上る工房。 金属を叩く音が響く。 熱気が、街全体を包んでいる。 ここは——世界最高の鍛冶の街。 溶岩で鍛えた剣。 闘気を込められる斧。 火山石を使った鎧。 どれも、一流の品。 「いい武器が多いねぇ〜」 グリーンは、店を見て回った。 そして——ある工房の前で立ち止まった。 工房の中では、老人が一人で鍛冶をしていた。 巨大なハンマー。 燃え盛る炉。 そして——美しい刃。 老人は——赤い肌だが、体は細い。 老いているが、目は鋭い。 名はイグロ・アッシュ。 「炎の匠」と呼ばれる、伝説の鍛冶師。 グリーンは、工房に入った。 「いい仕事だねぇ〜!」 イグロが、顔を上げた。 「……客か」 「旅の商人さ。いい刃だから、つい見とれたよ〜」 イグロは、グリーンを見つめた。 「……お前、面白い男だな」 「えっ?」 「この熱さの中、その格好で平気な顔してる。  普通じゃない」 グリーンは、笑った。 「慣れてるからね〜!」 イグロも、薄く笑った。 「何が欲しい」 「特注品……いくつか頼みたいんだけど」 「島用か」 「そう。双極島で使える武器をね。  南の領域——武の領域を攻略するための装備」 イグロは、しばらく考えていた。 「……面白い依頼だ」 「作ってくれる?」 「作ろう。時間はかかるが」 「よろしくね〜!」 ◆ 魔神派の領域 夕方。 グリーンは、魔神派の領域に移動した。 こちらは、武神派とは雰囲気が違う。 緑の光が漂う、神秘的な街並み。 石造りの建物に、蛍光の模様が浮かんでいる。 魔法陣が、あちこちに描かれている。 武神派の荒々しさとは対照的な、知性と冷静さ。 グリーンは、酒場に入った。 ここには——魔神派の者たちが集まっていた。 黒いローブ。 緑に光る血管——体表に魔力が浮かんでいる。 知性を感じさせる目。 闘気と魔法を組み合わせる者たち。 ハイブリッド志向。 グリーンは、カウンターに座った。 「酒を一杯」 隣に座っていた男が、グリーンを見た。 「……旅人か」 「ああ〜、商人さ」 グリーンは、杯を傾けた。 「双極島から来たんだよ」 男の目が、光った。 「双極島……神の戦争があった場所か」 「そうそう!」 男は——黒いローブを纏った若者。 名はヴェル・エクリプス。 魔神派の若手エリート。 「何の用だ」 「商売の話さ〜」 グリーンは、何気なく言った。 「最近、島がにぎやかでね。  アルダ軍が挑戦したんだ」 「……聞いている」 「で——ファーニアも動き始めてる」 ヴェル・エクリプスの目が、細くなった。 「ファーニア……魔法の国か」 「そう。北の領域——魔神の領域を狙ってるって話」 グリーンは、声を低くした。 「魔導研究院が、遠征隊を編成してるらしいよ」 「……」 「イグナは、このまま黙ってていいのかな〜?」 ヴェルの指が、杯を強く握った。 「……魔神の領域は、我々の聖地でもある」 「だろうね〜」 「ファーニアに先を越されるわけにはいかない」 グリーンは、にっと笑った。 「いい心がけだね〜」 ◆ 魔神派の幹部 夜。 魔神派の研究棟。 グリーンは、密かに招かれていた。 個室。 緑の光が、淡く照らしている。 向かいには——魔神派の幹部が座っていた。 黒いローブ。 体表に、緑の魔力血管が浮かんでいる。 知性と威圧感。 名はゼロス・ヴォイド。 魔神派の重鎮。 「緑の賢者」と呼ばれる男。 「……お前が、噂の商人か」 「やあやあ! 幹部さん!」 グリーンは、陽気に手を振った。 「双極島の話、聞いてくれた?」 「ああ。部下から報告を受けた」 「で、どう思う?」 ゼロスは、しばらく考えていた。 「……武神派が動いているという話もある」 「そうそう! 連中、もう遠征隊を編成し始めてるよ〜」 「そしてファーニアも——」 「うん。みんな動いてる」 グリーンは、身を乗り出した。 「——魔神派だけ動かないの?」 ゼロスの目が、光った。 「……挑発しているのか」 「いやいや〜、ただの情報提供!」 グリーンは、笑った。 「でもね——双極島で成果を出せば、大陸内での発言力も増すよ?  武神派に差をつけられる」 ゼロスは、黙って聞いていた。 「北の領域——魔神の領域。  そこを攻略すれば、魔神派の威信は揺るがないよ〜」 「……」 「武神派が南で暴れてる間に、北を制覇する——  そういう戦略もあるんじゃない?」 ゼロスは、考えていた。 「……検討しよう」 「いい返事、待ってるね〜!」 ◆ 傭兵団 翌日。 イグナ大陸の傭兵街。 武神派にも魔神派にも属さない、中立の傭兵たち。 金で雇われ、戦う者たち。 グリーンは、傭兵団の拠点を訪れていた。 「おーい! 誰かいるかい〜?」 建物の中から、男が出てきた。 巨大な体——だが、赤い肌ではない。 人間だった。 ただし——全身に傷跡がある。 名はガジー・アイアン。 「鉄の盾」と呼ばれる傭兵団のリーダー。 元はアルダ大陸の軍人だったが、脱走して傭兵になった男。 「……何の用だ」 「商売の話さ〜!」 グリーンは、陽気に言った。 「双極島って知ってる?」 「……知っている」 「いい仕事があるんだよ〜」 ガジーは、グリーンを見た。 「……続けろ」 「島に来てほしいんだ。  護衛、案内、何でもいい」 「報酬は」 「交渉次第さ〜。  でも——島では、傭兵の仕事はいくらでもある」 ガジーは、鼻で笑った。 「挑戦者の護衛。  遠征隊の支援。  商人の警護——」 グリーンは、続けた。 「それに——挑戦者になる道もある。  端まで行けば、名声も金も手に入る」 ガジーの目が、光った。 「……面白い話だ」 「だろう〜?」 グリーンは、杯を掲げた。 「島で待ってるぜ〜!」 ◆ 収穫 イグナ大陸を離れる前—— グリーンの荷物は、さらに増えていた。 ・特注の武器(受け取りは後日) ・火山石を使った装飾品 ・溶岩鉄の鍛冶道具 ・魔神派の魔力石 ・珍しい鉱石 「いい買い物だったな〜」 そして——人脈も広がった。 ・武神派の幹部——ボルガ・フレイム ・若い挑戦者——オーガ・クラッシュと仲間たち ・伝説の鍛冶師——イグロ・アッシュ ・魔神派の若手——ヴェル・エクリプス ・魔神派の重鎮——ゼロス・ヴォイド ・傭兵団リーダー——ガジー・アイアン 「イグナからも、いい人材が来そうだな〜」 グリーンは、満足げに笑った。 世界中から、挑戦者たちが双極島を目指すことになる。 グリーンが撒いた種が、芽吹き始めていた。 ——第15話 終わり——