「救出」 ◆ 報告 アルダ軍の戦艦。 パイルとナッドが、息を切らしながら戻ってきた。 「隊長!」 パイルが、片膝をついた。 「見つけました」 軍隊長が、立ち上がった。 「場所は」 「港の北——廃倉庫です。  見張りが三人。中に、もっといます」 ナッドも続けた。 「子供たちは——たぶん、奥の方に」 軍隊長は、頷いた。 「よくやった」 「……」 パイルは、顔を上げた。 「隊長。自分たちも——」 「分かっている」 軍隊長は、パイルの肩に手を置いた。 「お前たちの仕事は、ここまでだ」 「でも——!」 「これ以上は——危険すぎる」 軍隊長の目は、厳しかった。 「お前たちは——まだ子供だ」 パイルは、唇を噛んだ。 だが——反論できなかった。 先生が、優しく言った。 「ちゃんと見つけてくれましたわ。ありがとう」 「……」 パイルは、黙って頭を下げた。 ◆ 突入 夜。 廃倉庫の前。 軍隊長と先生、そして助手が潜んでいた。 「見張りは三人か」 「はい。中には——五、六人」 軍隊長が、武器を構えた。 「俺が正面から行く。お前たちは——」 「まあ、頼もしい」 先生が、微笑んだ。 「私が援護しますわ」 ——突入。 軍隊長が、正面から突っ込んだ。 見張りが、気づいた。 口を開けて——叫んでいる。 だが——声が、聞こえない。 「……?」 軍隊長は、違和感を覚えた。 敵の声が、まったく聞こえない。 だが——戸惑っている暇はない。 一撃。 最初の見張りが、吹き飛んだ。 すかさず——助手が駆け寄る。 「縛」 短い詠唱。 緑の光が、倒れた敵の口元と体を縛り上げた。 「……」 軍隊長は、次の敵に向かった。 二人目の見張りが、武器を振りかぶって突っ込んできた。 やはり——声は聞こえない。 何か叫んでいるようだが、無音。 軍隊長の一撃で、二人目も吹き飛ぶ。 助手が、すぐに拘束した。 三人目——同様だった。 闘い心地のない、奇妙な戦闘だった。 軍隊長は、ふと周囲を見回した。 大魔法使いは—— まるで知り合いの家を訪ねるかのように、悠々と廃倉庫の中へ入っていくところだった。 ◆ 異様な光景 軍隊長は、先生の後を追って廃倉庫に入った。 そして——立ち止まった。 「……何だ、これは」 異様な光景だった。 廃倉庫の中にいた敵——五、六人。 全員が、壁を向いて正座していた。 動かない。 まるで——時間が止まったかのように。 その中央に—— 黒いローブの人影が、構えたまま固まっていた。 首には——金属の枷。 魔法使い奴隷だ。 暗い光が、その手に収束したまま——止まっている。 攻撃の姿勢のまま、凍りついていた。 そして—— 廃倉庫の奥。 先生が、しゃがみ込んでいた。 子供が二人——グラニとチーが、縛られていた。 先生は、にこにこと話しかけていた。 「お元気かしら? 怖かったでしょう」 グラニとチーは——ぽかんとしていた。 何が起きているのか、まったく理解できていない様子だった。 軍隊長は、困惑した。 「どういう状況だ? 終わっているのか? 何もなかったのか?」 助手が、ゆっくりと廃倉庫に入ってきた。 「先生、相変わらずお美しい魔法でございます」 そう言いながら、壁を向いて正座している敵たちに、次々と拘束魔法をかけていく。 先生が、立ち上がった。 「あら、褒めても何も出ませんわよ」 軍隊長は、状況の理解が追いついていなかった。 だが——もう終わったのだ、と理解した。 子供たちは、無事だ。 それだけで——十分だった。 ◆ 初めて見る魔法 軍隊長が、グラニとチーに近づいた。 「大丈夫か」 グラニとチーを縛っている縄を、ナイフで切る。 「軍隊長……!」 グラニが、声を上げた。 「ありがとう——ありがとうございます」 「他の二人は」 「あっちの奥に——まだ二人います」 軍隊長は、頷いた。 「すぐに助ける」 そして——奥へ向かった。 グラニとチーは、まだ呆然としていた。 白いローブの女性が——微笑んでいた。 美しい。 今まで見たことがないほど、美しい人だった。 「大丈夫? 怪我はない?」 その笑顔は——太陽のようだった。 「あ……ありがとう、ございます」 グラニが、頭を下げた。 チーも、ぺこりと頭を下げた。 「きれい……魔法、きれいでした」 彼女は、くすりと笑った。 「あら、ありがとう。  魔法は美しいわね」 そして——優しく言った。 「先生と呼んでくれてもいいのよ」 ◆ 後始末 夜明け。 廃倉庫には、アルダ軍の兵士たちがいた。 誘拐犯たちは——全員、拘束されていた。 軍隊長が、副官に言った。 「バルモラの商人は——」 「現場にはいませんでした。  奴隷たちも——何も喋りません」 「……」 軍隊長は、歯を食いしばった。 「証拠がない、か」 「はい。黒幕との繋がりは——立証できません」 先生が、近づいてきた。 「残念ですわね」 「ああ……」 軍隊長は、深く息を吐いた。 「だが——子供たちは無事だ。それが一番大事だ」 「ええ」 先生は、頷いた。 「今回は——それで十分ですわ」 軍隊長は、先生を見た。 「……すまなかった。借りを作った」 「あら」 先生は、微笑んだ。 「忘れませんわよ?」 「ああ。分かっている」 ◆ 新たな日常 朝。 セントラル港。 グラニは、港を歩いていた。 昨夜のことが——まだ、夢のようだった。 誘拐された。 暗い場所に、閉じ込められた。 でも——助けてもらった。 軍隊長に——助けてもらった。 そして—— 「魔法……」 グラニは、呟いた。 あの光。 あの温かさ。 あの——美しさ。 「すごかった……」 パイルとナッドが、近くを通りかかった。 「おい」 パイルが、声をかけた。 「……無事だったか」 「うん……ありがとう」 グラニは、頭を下げた。 「君たちが——見つけてくれたって、聞いた」 「……」 パイルは、そっぽを向いた。 「別に。俺たちは——何もしてない」 「そんなことない——」 「うるせえ」 パイルは、歩き去った。 だが—— 「……よかったな。無事で」 小さく、そう言った気がした。 ◆ 先生の宣言 港に——あの白と金の船が、停泊していた。 先生が、タラップに立っていた。 「では——しばらく、お世話になりますわ」 軍隊長が、頷いた。 「北の領域に——挑戦するんだったな」 「ええ」 先生は、微笑んだ。 「あの領域を制覇すれば——私の名は、歴史に刻まれますわ」 「……野心家だな」 「お互い様ですわ」 先生は、くすりと笑った。 「アルダの英雄さん」 軍隊長は、鼻で笑った。 「好きにしろ」 先生は、港を見回した。 島の人々が、集まっていた。 「皆さん——よろしくお願いしますわね」 杖を振ると—— 空中に、緑と金の花が咲いた。 「わあっ!」 子供たちが、歓声を上げた。 グラニも——その光景を、見つめていた。 「強い人は——たくさんいるんだな」 呟いた。 軍隊長の、武の強さ。 先生の、魔法の美しさ。 パイルとナッドの、覚悟。 「俺も——」 グラニは、拳を握った。 「いつか——」 その言葉は、風に消えた。 だが——何かが、胸の中で動き始めていた。 ——第17話 終わり——