「再会」 ◆ 謁見 翌日。 双極島・王城。 ファーニアの一行が、城へ向かっていた。 大魔法使い。 助手。 そして魔法師団たち。 白と金のローブが、朝日を受けて輝く。 「まぁ、素敵なお城ですわね」 大魔法使いが、興味深そうに城を見上げた。 「先生、本日は正式な外交です。どうかお振る舞いを——」 「分かっていますわ」 助手の言葉を、大魔法使いは手で遮った。 「私だって、場をわきまえることくらいできますの」 助手は、少し不安そうだった。 ◆ 王の間 王の間。 双極島の王が、玉座に座っていた。 老齢の男だった。 白い髭。 穏やかだが、威厳のある目。 その横には、側近たちが控えている。 「ファーニア王国より——大魔法使い殿のお越しです」 案内役の声が響いた。 大魔法使いが、優雅に歩み寄る。 そして——深く一礼した。 「ファーニア王国より参りました。双極島の王にお目にかかれて光栄ですわ」 王は、ゆっくりと頷いた。 「遠路はるばる——ようこそ、双極島へ」 老いた声だが、芯がある。 「ファーニアの大魔法使いの名声は、我が島にも届いておる」 「まぁ、光栄ですわ」 大魔法使いは、微笑んだ。 「此度は——北の領域への挑戦を志して参りました。しばらくの滞在、お許しいただければ」 「うむ。好きにするがよい」 王は、鷹揚に頷いた。 「後ほど——内密にお話がある。お時間をいただけるか」 「ええ。喜んで」 ◆ 密会 城の奥の間。 窓には厚い布がかけられ、外からは見えない。 集まっているのは—— 王。 大魔法使い。 助手。 軍隊長。 副官。 五人だけだった。 「……改めて、礼を申し上げる」 軍隊長が、頭を下げた。 「此度の誘拐事件——ファーニアの力がなければ、子供たちは救えなかった」 「まあまあ、そんなに堅くならないでくださいな」 大魔法使いは、くすりと笑った。 「私も——北の領域に挑戦するつもりでしたから。ちょうどいい機会でしたわ」 王が、口を開いた。 「バルモラの商人は——まだ港に停泊している」 「証拠がありませんからな」 副官が言った。 「奴隷たちは何も喋らない。黒幕との繋がりは——立証できません」 「……」 部屋に、沈黙が落ちた。 大魔法使いが、杖を弄びながら言った。 「まぁ、今回は——子供たちが無事だったことで良しとしましょう」 「ああ」 軍隊長も頷いた。 「それが一番大事だ」 王は、静かに言った。 「ファーニアには——借りができた。何かあれば、遠慮なく言ってほしい」 「あら、嬉しい」 大魔法使いは、にっこり笑った。 「では——島の滞在を、有意義にさせていただいてもよろしいかしら?」 「ほどほどにな」 王は、苦笑した。 ◆ 港の仕事 昼。 セントラル港。 グラニは、父のバンと一緒に働いていた。 「こっちだ、グラニ」 「うん!」 ファーニアの船への補給物資を運んでいた。 軍隊長からの紹介で、ファーニアの船にも物資を届けることになったのだ。 「すげえ船だな……」 グラニは、白と金の船体を見上げた。 緑の紋様。 輝く水晶。 今まで見たことのない、美しい船。 「見とれてる場合じゃないぞ」 バンが、笑いながら言った。 「仕事だ、仕事」 「分かってるよ!」 グラニは、樽を担ぎ上げた。 船員たちが、タラップで荷物を受け取る。 「ありがとう、坊や」 「お気をつけて」 ファーニアの船員たちは、礼儀正しかった。 だが——どこか冷たい印象もあった。 「なんか……アルダ軍とは違うな」 グラニは、そう思った。 ◆ 宴の準備 夕方。 港の広場。 大きなテーブルが、いくつも並べられていた。 「今夜は宴だ!」 「ファーニアの到着を祝う!」 港の男たちが、陽気に叫んでいた。 フェズが、巨大な鍋を運んできた。 ビッグイーターのユキナが、後ろから声を上げた。 「今日は——特別メニューだ!」 「おおっ!」 歓声が上がる。 島民、アルダ軍の兵士、ファーニアの船員—— みんなが集まってきた。 「すごい……こんな大きな宴、久しぶりだ」 グラニは、目を輝かせた。 ◆ 盛大な宴 夜。 広場は、大騒ぎだった。 「かんぱーい!」 「うおおおお!」 兵士たちが、杯を掲げる。 島民たちも、負けじと飲んでいる。 「うめえ! この肉うめえ!」 「ビッグイーターの料理は最高だ!」 テーブルには、料理が山盛りだった。 巨大な肉塊。 香ばしいスープ。 新鮮な魚介。 島の果物。 「もっと持ってこい!」 「酒が足りないぞ!」 大人たちは、すっかり酔っ払っていた。 グラニは、ヘイタと一緒に、隅の方で料理を食べていた。 フェズは——ユキナの手伝いで大忙しだ。 広場を駆け回り、料理を運び、空いた皿を下げる。 「フェズ、大変そうだな……」 「がんばれ〜」 グラニとヘイタは、遠くから応援した。 「すげえなぁ……」 「大人って、あんなに飲むんだな」 「俺もいつか、あれくらい飲めるようになりたい」 「バカ言うな」 子供たちは、笑い合った。 ◆ 色仕掛け 宴の中央。 軍隊長が、杯を手に座っていた。 その横に—— 大魔法使いが、するりと座った。 「お隣、よろしいかしら?」 「……好きにしろ」 大魔法使いは、妖艶に微笑んだ。 「今夜は——とても楽しいですわね」 杖を置き、軍隊長の腕に手を添える。 「あなたのような強い方と——もっとお話したいですわ」 「……」 軍隊長は、無表情だった。 「私——強い男性に、とても惹かれますの」 大魔法使いは、身を寄せた。 「あなたの戦い方——とても興味がありますわ」 「……酒でも飲んでいろ」 「あら、つれないですわね」 大魔法使いは、くすくす笑った。 その様子を—— 助手が、遠くから見ていた。 「先生……! また……!」 慌てて駆け寄ろうとする。 だが——人混みに阻まれる。 「先生! お振る舞いを——!」 「あらあら、助手くん。お酒でも飲んでいらっしゃいな」 「飲んでる場合じゃないです!」 副官も、その様子を見ていた。 「……」 だが——何も言えなかった。 「管轄外だ……」 小さく呟いて、自分の杯に視線を落とした。 ◆ 翌朝 朝。 港の広場。 昨夜の宴の跡が、広がっていた。 空っぽの樽。 散らかったテーブル。 転がった杯。 「うわぁ……すごい散らかりよう」 グラニが、呆れた声を上げた。 「掃除しないとな」 フェズが、ほうきを手に取った。 「みんな、起きてる?」 カズが、あくびをしながらやってきた。 「起きたばっかりだよ」 ニアーも、眠そうな目をこすりながら歩いてきた。 カズが、フェズを見て笑った。 「昨日、めっちゃ忙しかった? フェズ、生きた顔してなかったな」 「そうだよ! めっちゃ笑った! フェズ必死すぎ!」 ニアーも、笑いながら言った。 「やめろって! やばかったんだから!」 フェズが、ほうきを振り回した。 「ユキナさん、作るの多すぎなんだよ!」 「ユキナさんのクレーム?」 グラニが、にやりと言った。 「そうゆうこと!?」 ニアーが、目を丸くした。 「違うって! 兵士とかみんな、飲みすぎなんだよ!」 フェズが、顔を赤くして否定した。 「やばかったよな〜!」 カズが、空っぽの樽を蹴った。 「俺も早く飲みてぇ〜! この掃除係から卒業してぇ〜!」 「あと何百回って、宴やったらかな〜」 フェズが、遠い目をした。 「気が遠くなる……吐きそう」 グラニが、頭を抱えた。 「グラニ! 間違っても掃除箇所増やさないでよ!」 ニアーが、慌てて言った。 子供たちは、笑い合いながら掃除を始めた。 「ヘイタは?」 「あいつ、まだ寝てる」 「起こしてこいよ」 「めんどくせえ」 しばらくして—— 「あっ! ヘイタ起きた!」 「遅いぞ!」 「うるせーよ、眠いんだよ」 ヘイタが、ふらふらと歩いてきた。 ◆ 朝の運動 その頃—— 軍隊長は、港の近くで朝の運動を終えていた。 素振り。 走り込み。 体術の型。 汗を拭きながら、港へ戻る。 「……」 広場では、子供たちが掃除をしていた。 じゃれ合いながら、それでもちゃんと働いている。 軍隊長は、小さく頷いた。 そして—— 港の船着き場へ向かった。 受付の小屋が見えた。 誰かが——椅子に座って準備をしていた。 「……」 軍隊長の足が、止まった。 サングラス。 ストライプのシャツ。 もじゃもじゃの髪。 「……」 軍隊長は、近づいた。 「おい」 グリーンが、振り向いた。 「数日、どこにいた」 ◆ 再会 「お! おはよう〜! 久々だねぇ〜!」 グリーンは、陽気に手を振った。 軍隊長は、無表情で言った。 「貴様が島にいないこともあるんだな」 「……」 グリーンは、一瞬だけ沈黙した。 そして—— 「まぁ、男の子にはさ」 にっと笑った。 「人知れず、一人旅がしたくなる時もあるんだよ」 「……そうか」 軍隊長は、深追いしなかった。 「貴様がいない数日——トラブルがあった。解決はしたが」 「ほぇ〜! それまた、どんなトラブル?」 軍隊長は、淡々と説明した。 「子供たちが複数、拉致に遭った。貴族の子供もだ。おそらくバルモラの仕業だろうが——犯人の元締めは不明だ」 「まぁ! そんなことが!」 グリーンは、大げさに驚いた。 「いや〜、奴隷商売ってのは隙がないね〜。嫌になるね〜」 軍隊長は、港に停泊している船を指差した。 「あの船——ファーニアの大魔法使いが、運よく上陸し、解決できた」 「あぁ〜」 グリーンは、白と金の船を見た。 「女魔法使いかな? 有名な——欲張りな魔法使いだね?」 「ああ、そうだ」 軍隊長は、グリーンの受付の椅子に腰を下ろした。 「大変な奴だ」 グリーンも、軍隊長の横に座った。 二人で、ファーニアの船を眺める。 「魔法使いってのは——どうしてあんな欲張りなんだろうねぇ〜」 「本当だ」 軍隊長は、腕を組んだ。 「戦場で何度も魔法使いと戦ったことがあるが——戦い方からも、欲張りというか……好みにはなれない戦い方をしてくる」 「やっぱり——戦い方って『色』が出るよねぇ〜」 グリーンは、笑った。 「ほんと、めんどくさいよね〜」 「……」 軍隊長は、少し黙った。 そして—— 「まぁ、魔法使いには負けないがな」 視線を、南の方角へ向けた。 「近日中に——また挑戦に行く。次は、もっと奥まで行く」 「無理するねぇ〜」 グリーンは、軍隊長を見た。 「——勝てそう?」 「……」 軍隊長は、しばらく黙っていた。 「アルダの名声——そして個人の高みには、必要なことだ」 そして——続けた。 「それに、ファーニアは北側だから、まだいいが——」 声が、少し低くなった。 「バルモラの奴隷戦士たちが、先に挑戦すれば——それこそ『面倒になりそう』だ。奴らが挑戦する前に、結果が欲しい」 「大陸の戦士だねぇ〜!」 グリーンは、感心したように言った。 ◆ 盗み聞き その頃—— ファーニアの船。 大魔法使いは、寝台の上にいた。 とても美しい——色気のある寝間着。 シルクのような白い布が、体を覆っている。 目は閉じていた。 だが—— 杖が、淡く光っていた。 魔法で——港の音を、聴いていた。 「——バルモラの奴隷戦士たちが、先に挑戦すれば——」 「——奴らが挑戦する前に、結果が欲しい」 「——大陸の戦士だねぇ〜!」 大魔法使いは、くすりと笑った。 「まぁ〜……勇ましいこと」 目を開けずに、呟いた。 「楽しそうね」 そして——また目を閉じた。 「もう少し、寝ましょう……」 ◆ 遠慮 グラニは、掃除をひと段落させていた。 「よし、あとは——」 グリーンさんの受付の準備をしようと思った。 いつも、朝は自分が手伝っている。 港へ向かう。 すると—— 「……あれ」 受付の小屋のところに——二人の姿が見えた。 軍隊長と、グリーンさん。 椅子に並んで座っている。 話し込んでいるようだった。 「……」 グラニは、足を止めた。 邪魔しては——悪いかな。 そう思った。 二人とも、大人だ。 大事な話をしているのかもしれない。 「……戻ろう」 グラニは、きびすを返した。 フェズやニアーたちのところへ—— 「おーい、グラニ! まだ片付け残ってるぞ!」 「今行く!」 グラニは、走り出した。 ——第18話 終わり——