「交流」 ◆ 午後の交流 午後。 グリーンは、ファーニアの船に向かっていた。 「やぁやぁ〜! お邪魔するよ〜!」 タラップを上がる。 船員たちが、じろりとグリーンを見た。 「……何の用だ」 「商売の話さ〜!」 グリーンは、陽気に言った。 「島の案内人だよ〜。何か必要なものがあれば、用意できるよ〜」 船員たちは、顔を見合わせた。 「……島の商人か」 「そうそう!」 グリーンは、にこにこと笑った。 「食料でも、水でも、珍しいものでも——何でも揃えられるよ〜」 船員の一人が、腕を組んだ。 「……先生に確認する。待っていろ」 「お願いね〜」 しばらくして—— 船員が戻ってきた。 「先生は——今、休んでいる。後にしてくれ」 「あらら〜」 グリーンは、肩をすくめた。 「じゃあ、また来るよ〜」 「……ああ」 船員たちの態度は——冷たかった。 友好的とは言えない。 グリーンは、タラップを降りようとした。 ◆ 王の一行 その時—— 港の方から、人影が近づいてきた。 グリーンは、足を止めた。 「……おや」 白い服。 輝く装飾。 そして——護衛の兵士たち。 先頭には——見覚えのある少女。 「……チーか」 グリーンは、目を見開いた。 王の側室の娘。 王城の姫君。 その隣には——王の側近と思われる初老の男が歩いている。 グリーンは、すぐにタラップを降りて—— 深々と頭を下げた。 「これはこれは……! 王の御一行とは驚きましたぁ〜!」 チーは、グリーンを見て—— 少し驚いたような顔をした。 「あら、グリーン殿。ごきげんよう」 チーは、おっとりと微笑んだ。 側近の男が、グリーンに頷いた。 「港の案内人か。久しぶりだな」 「ええ、ええ! 光栄ですぅ〜!」 グリーンは、笑顔で言った。 「いかがなさいましたか? ファーニアの船に御用ですか?」 「ああ。王からの手紙を届けに参った」 側近は、手に一通の書簡を持っていた。 ◆ 門前払い 一行は、ファーニアの船の前に立った。 側近が、声を上げた。 「双極島の王より、ファーニアの大魔法使い殿に書状を届けに参った! 取り次ぎを願いたい!」 船の上から—— 魔法師団の者たちが、顔を出した。 「……何だ?」 「誰だ?」 彼らは、一行を見下ろした。 しかし—— まるで興味がなさそうだった。 「用件は何だ。先生はお忙しい」 「見ての通り、こちらは双極島の王の——」 「知らん。後にしてくれ」 魔法師団の一人が、手を振った。 側近の顔に——怒りが浮かんだ。 「失礼な! こちらは王の使者だぞ!」 「だから何だ。ここはファーニアの船だ」 「……」 チーは、困ったような顔をしていた。 「あの……わたくしたち、どうすれば……」 護衛の兵士たちも——苛立ちを隠せない様子だった。 しかし——相手は魔法使いの国の船。 下手に揉め事を起こすわけにもいかない。 ◆ グリーンの介入 その様子を—— グリーンは、少し離れた場所から見ていた。 「……」 さすがに——まずいだろう。 グリーンは、ゆっくりと船のタラップに近づいた。 「あの〜、すいませ〜ん」 魔法師団の者たちが、グリーンを見た。 「何だ、さっきの商人か。まだいたのか」 「いやいや〜、ちょっと待ってくれよ〜」 グリーンは、困ったような笑顔で言った。 「こちらは——双極島の王の御一行だよ〜?」 「だから——」 「王の使者だよ〜? しかもあのお嬢さんは——王の姫君だぜ〜?」 グリーンは、チーを指差した。 「対応が不適切じゃないかな〜? 外交問題になっちゃうかもよ〜?」 「……」 魔法師団の者たちの顔色が——変わった。 「王の……姫君だと……?」 「そうそう〜! この島の王様の娘さんだ〜! ファーニアの船がこの島に滞在させてもらってる立場だろ〜? 王家にこの態度は——まずいんじゃないかな〜?」 魔法師団の者たちは、顔を見合わせた。 「……待っていろ! 助手殿を呼んでくる!」 一人が、慌てて船の中に駆け込んでいった。 チーは—— グリーンの方を、ちらりと見た。 そして—— ペコッと、小さく頭を下げた。 グリーンは、にこっと笑った。 ◆ 助手の登場 しばらくして—— 青いローブの若い男が、タラップを降りてきた。 助手だった。 「これは——大変失礼いたしました」 助手は、深々と頭を下げた。 「船員たちは——事情を知らなかったのです。どうかお許しください」 側近は——まだ不機嫌そうだったが、 「……分かった。ファーニアの助手殿と見受ける。王からの書状をお渡ししたい」 「承知いたしました」 助手は、居住まいを正した。 「どうか——船の中へ。お茶を用意させますので」 「……」 側近は、チーを見た。 チーは、うなずいた。 「参りましょう」 「では——姫殿下と、お一方だけ、船内へご案内いたします」 助手が言った。 「護衛の方々には——申し訳ございませんが、ここでお待ちいただけますでしょうか」 護衛たちは——渋々と頷いた。 チーと側近だけが—— ファーニアの船の中に入っていった。 ◆ グリーンの観察 グリーンは—— その様子を見ながら、静かにその場を離れた。 「面白いねぇ〜」 小さく呟いた。 「王家の姫君が、わざわざファーニアの船に来るとは。何の用だろうねぇ〜」 受付に戻りながら—— グリーンは、考えた。 「まぁ、また後で分かるさ〜」 椅子に座り—— 港を眺めた。 ◆ 船内の接待 ファーニアの船。 客間。 豪華な調度品が並ぶ部屋だった。 助手が、チーと側近を席に案内した。 「どうぞ、おかけください」 三人が——向かい合って座った。 助手。 チー。 そして側近。 「改めまして——双極島の姫殿下をお迎えでき、光栄でございます」 助手が、丁寧に言った。 「此度は——どのようなご用件でしょうか」 側近が、懐から書状を取り出した。 「王からの手紙だ。大魔法使い殿にお渡しいただきたい」 「承知いたしました」 助手は、書状を受け取った。 そして——中身を確認するために、封を開けた。 「……」 助手の目が——少し見開かれた。 「これは……姫殿下のご希望、ということでしょうか」 チーは、少し恥ずかしそうに—— 「ええ……わたくしのお願いですの」 チーは、真剣な目で言った。 「先日——誘拐されたとき、先生の魔法を間近で見ましたわ」 「……」 「あの光。あの美しさ。わたくし——完全に魔法のとりこになってしまいましたの」 チーの目が、輝いていた。 「先生に——魔法を教えていただきたいのです」 ◆ 助手の反応 助手は——少し困ったような顔をした。 「……なるほど」 手紙を見つめながら、言った。 「私は——魔法が良い方向に広まるのであれば、喜ばしいことだと思います」 「では——」 「しかし」 助手は、首を振った。 「本来——先生にお手間をかけるわけにはまいりません。先生は北の領域への挑戦に向けて、準備をされておりますので」 チーの顔が——少し曇った。 「そう……ですか……」 「ですが」 助手は、微笑んだ。 「ファーニアの大魔法使いがこの島に滞在している以上——確認はしてみましょう」 チーの顔が——明るくなった。 「本当ですか!?」 「はい。少々お待ちください。先生に——」 ◆ 先生の登場 その時—— 部屋の扉が、開いた。 「お話は——聞いていましたわ」 白い魔導服。 金色の杖。 そして——上機嫌な笑顔。 ファーニアの大魔法使いが—— まるで最初から待っていたかのように、部屋に入ってきた。 「先生……!」 助手が立ち上がった。 「なぜこちらに——」 「あら。お客様がいらっしゃるなら、お迎えするのが礼儀でしょう?」 先生は、優雅に歩み寄った。 そして——椅子に座った。 助手は——慌ててテーブルにティーカップを用意した。 紅茶が注がれる。 先生は——カップを手に取り、香りを確かめた。 「……いい香りですわね」 そして——一口飲んだ。 チーと側近は——緊張した面持ちで、先生を見つめていた。 ◆ 先生の承諾 「さて」 先生は、チーを見た。 「魔法を教えてほしい——そういうことかしら?」 「はい……!」 チーは、真剣に頷いた。 「先日の先生の魔法——あれを見て、わたくし——世界が変わりましたの……!」 「まぁ、嬉しい」 先生は、くすりと笑った。 そして——紅茶のカップを置いた。 「よいでしょう」 「えっ……!?」 チーが、目を見開いた。 「こちらにも——メリットの全くない話ではありませんし」 先生は、にっこりと微笑んだ。 「お教えしますわよ」 チーの顔が——輝いた。 「本当ですか!? ありがとうございます! ありがとうございます……!」 チーは、椅子から立ち上がりそうになるほど喜んでいた。 側近も——安堵したような顔をした。 「では——授業の日程など、後日調整いたしましょう」 助手が言った。 「外交に関することは——私が窓口になりますので」 「ありがとうございます! よろしくお願いいたします!」 チーは、深々と頭を下げた。 ◆ 外交の話 その後—— 先生と側近の間で、いくつかの外交に関する話し合いが行われた。 ファーニアの滞在期間。 島での行動範囲。 北の領域への挑戦の件。 「此度——双極島にファーニアの大魔法使い殿を迎えられたことは、王も喜んでおります」 側近が言った。 「どうか、滞在中はゆっくりとお過ごしください」 「ありがとう。そうさせていただきますわ」 先生は、優雅に頷いた。 「北の領域——楽しみにしていますの」 話し合いが終わり—— チーと側近は、船を後にした。 ◆ 受付の前 チーたちが——王城に帰る途中のこと。 港の受付の前を通りかかった。 グリーンが——椅子に座って、退屈そうにしていた。 その隣には——グラニもいた。 仕事の合間に、グリーンさんの手伝いをしていたのだ。 「あっ!」 グラニが——チーたちに気づいた。 「チー! どうしたの!? 珍しいね!」 チーが——にこっと笑った。 「あら、グラニ! こんにちわ」 護衛たちが、少し足を止めた。 チーは——とても嬉しそうな顔をしていた。 「わたくし——先生に魔法を教えていただけることになったのよ!」 「えっ!?」 グラニが、目を見開いた。 グリーンも——驚いた顔をした。 「なんだって!?」 グラニは、興奮して言った。 「魔法習うの!? すごいね! チーすごい!」 「ふふ」 チーは、照れたように笑った。 「先日の先生の魔法を目の前で見て——わたくし、大変感銘を受けましたの! 世界が変わったわ!」 「うんうん!」 グラニも、頷いた。 「確かにすごかったよね! あれが魔法なんだね! 僕も興味ある!」 「あら、グラニも?」 「うん! あの光——きれいだったし、すごかった——!」 チーと——少しの間、魔法について話した。 そして—— 「では、わたくしは——父に伝えに戻りますわ」 チーが言った。 「善は急げですわ」 「うん! 分かった! じゃあまたね!」 グラニは、手を振った。 チーたちは——王城へ向かって歩いていった。 ◆ 刺激 グラニは——チーたちの背中を見送った。 そして——グリーンさんの方を見た。 「チーすごいね! 魔法かぁ〜」 グリーンは——サングラスの奥で、目を細めた。 (まさか——魔法を覚えたいなんて言うとは) 心の中で——つぶやいた。 (王様の娘とはいえ——この島の子どもが、魔法に興味を持つなんてねぇ) にっと——笑みを浮かべた。 (これは——楽しくなってきたな) 「グリーンさん?」 「ん〜? なんだい、グラニ〜」 「いや——なんでもない」 グラニは——少し考え込んでいた。 チーが魔法を習う。 自分は——何をしているんだろう。 (俺も——何かしないと) そう思った。 ◆ 訓練 その後—— グラニは、暇があれば体を動かした。 軍隊長から教わった宿題を、黙々とこなす。 「動くな。立っていろ」 軍隊長の言葉を思い出しながら——じっと立つ。 「目を閉じて、周りの音を聞け」 港の音に——集中する。 「構えを百回」 木剣を持って——素振り。 チーに——刺激されたのかもしれない。 (俺だって——強くなりたい) そう思いながら—— 汗を流した。 グラニの日々は——少しずつ動き始めていた。 ——第19話 終わり——