「危険地帯」 ◆ 南への道——入り口 三人は——歩き始めた。 パイルが、先頭。 ナッドが続く。 この道は——二人にとって、二度目だった。 前に——軍隊長と一緒に来た道。 グラニは——最後尾で、必死についていく。 初めて見る景色。 初めての——危険地帯。 パイルとナッドは——周囲を警戒している。 目が——鋭い。 「……静かだな」 パイルが、呟いた。 「まだ入り口だからね」 ナッドが、答えた。 「本当の危険は——この先」 グラニは——道を見つめた。 緑の丘は——もう終わっていた。 地面が——茶色く変わり始めている。 岩が——増えてきた。 ◆ 足跡 三十分ほど歩いた頃。 ナッドが——足を止めた。 「待って」 低い声。 パイルも——立ち止まる。 グラニは——何が起きたか分からなかった。 「……何?」 「足跡」 ナッドが、地面を指さした。 そこには——足跡があった。 複数の——足跡。 グラニには——ただの地面にしか見えなかった。 だが、パイルとナッドは違った。 「十人以上……いや、二十人近い」 パイルが、しゃがんで足跡を見る。 「まだ新しい。数時間前ってとこだな」 「軍隊長のじゃない」 ナッドが、冷静に言った。 「人数が多すぎる」 「バルモラの奴らだ」 パイルが、立ち上がった。 「やっぱり——追ってやがる」 グラニは——二人を見ていた。 (すごい……こんなの、ボクには全然分からない) 足跡は——南へ続いていた。 「……追うぞ」 パイルが、言った。 ◆ 変わる景色 一時間後。 景色が——はっきりと変わっていた。 空気が——重い。 熱い。 遠くに——噴煙が見える。 「……暑い」 グラニが、呟いた。 汗が——噴き出している。 「水を飲め」 ナッドが、言った。 「でも——」 「ここで倒れたら、意味ないでしょ」 グラニは——水筒を口にした。 少しだけ。 節約しながら。 ◆ 噴気孔地帯 さらに進むと—— 地面から——蒸気が噴き出していた。 シュゥゥゥ…… 熱い。 近づくだけで——肌が焼けそうだ。 「こっちだ」 パイルが、指示した。 「前に来た時——この辺りを通った」 ナッドも頷く。 「覚えてる。ここを迂回すれば——抜けられる」 グラニは——二人の後ろについていく。 (すごい……こんな場所、ボクには分からない) 二人の経験が——頼りだった。 ◆ 最初の危機 そのとき—— 地面が、揺れた。 「っ!」 三人が——足を止める。 揺れが——収まらない。 「地震か!?」 「違う——」 ナッドが——叫んだ。 「走れ!!」 その瞬間—— 三人の足元から——蒸気が噴き出した。 シュゥゥゥゥ!! 「うわっ!!」 グラニは——とっさに横に飛んだ。 パイルとナッドも——反応する。 蒸気が——空中に吹き上がる。 熱い。 触れたら——火傷する。 「くそっ……!」 パイルが、舌打ちした。 「突然かよ……!」 「予測できないんだよ——この地帯は」 パイルが、息を切らせながら言った。 「前に来た時も——兵士が一人やられた」 グラニは——何も言えなかった。 自分だけでは——絶対にここまで来れなかった。 ◆ 休憩 危険地帯を抜けた後。 三人は——岩陰で休憩した。 息が荒い。 体力が——削られている。 「……きついな」 パイルが、言った。 「まだ——入り口付近なのに」 「軍隊長たちは——この先まで行ったんだよね」 グラニが、言った。 「どんだけ大変だったんだ……」 ナッドは——前を見ていた。 「バルモラの奴らの足跡——まだ続いてる」 「追いつけるかな」 「走れば——追いつける」 ナッドの目が——鋭くなった。 「でも——体力が持つかどうか」 三人は——黙った。 自分たちの限界が——見えてきた。 ◆ 異音 休憩を終えて——また歩き出した。 その時—— 遠くから——音が聞こえた。 キィィィィ…… 「……何の音?」 グラニが、立ち止まった。 パイルとナッドも——警戒する。 また聞こえた。 キィィィィ!! 今度は——はっきりと。 甲高い鳴き声。 「モンスターだ」 パイルが、剣に手をかけた。 「まずいな——こっちに来てる」 ◆ トカゲ型モンスター 岩陰から——それは現れた。 トカゲに似た——二足歩行の生物。 人間の腰ほどの高さ。 鋭い爪。 ギラギラした目。 「……っ」 グラニは——息を呑んだ。 一匹。 二匹。 三匹—— 「多い……!」 五匹のモンスターが——三人を囲むように近づいてくる。 キィィィ!! 威嚇の鳴き声。 ◆ 戦闘 「グラニ——下がってろ」 パイルが、剣を抜いた。 「お前、戦えるのか」 「……少しは」 グラニは——ナイフを構えた。 家から持ってきた——母親の料理用ナイフ。 刃渡りは——手のひらほどしかない。 「……何それ」 ナッドが——グラニの手元を見て、呆れた声を出した。 「それで戦う気?」 「他に武器がなかったんだよ!」 グラニは、恥ずかしそうに言った。 「……信じられない」 ナッドは——ため息をついた。 パイルも——一瞬、言葉を失った。 「……まあいい。とにかく死ぬな」 本物の戦闘は——初めてだ。 ナッドは——剣を構え直した。 冷静に——敵を見ている。 「三匹はあたしたちが引きつける。残りの二匹を——」 「分かった」 グラニは——頷いた。 小さなナイフを——握りしめる。 次の瞬間—— モンスターたちが——一斉に襲いかかってきた。 ◆ パイルの奮闘 キィィィ!! パイルに向かって——二匹が飛びかかる。 「来やがれ!!」 パイルは——叫んだ。 剣を振る。 一匹目が——弾かれた。 すぐに——二匹目が来る。 横に——かわす。 そして——反撃。 剣が——モンスターの体を切り裂いた。 ギィッ!! 悲鳴。 一匹が——倒れた。 「よし——!」 だが——油断した。 一匹目が——また飛びかかってきた。 「っ!!」 パイルは——反応が遅れた。 爪が——腕をかすめる。 「ぐっ……!」 血が——滲んだ。 「パイル!」 ナッドの声。 「大丈夫! 来るな!」 パイルは——歯を食いしばった。 剣を——振り上げる。 そして——渾身の一撃。 ザンッ!! 一匹目が——倒れた。 ◆ ナッドの戦い ナッドは——一匹を相手にしていた。 冷静に——距離を取る。 モンスターが——突進してくる。 ナッドは——横にステップ。 すれ違いざまに——剣を振る。 手応え。 「……浅い」 モンスターは——まだ動いていた。 傷を負いながら——また向かってくる。 「しつこいね」 ナッドは——構え直した。 今度は——正面から受ける。 モンスターの爪が——振り下ろされる。 ナッドは——剣で受け止めた。 ガキィン!! 腕が——しびれる。 「っ……!」 重い。 だが——押し返す。 そして——隙ができた。 「——そこ」 剣を——突き出す。 ズブッ!! モンスターの胸に——剣が刺さった。 キィィ…… 断末魔。 そして——倒れた。 ◆ グラニの戦い グラニは——二匹を相手にしていた。 ナイフ一本。 それしか——武器がない。 「来るな——来るな——」 呟きながら——後退する。 モンスターたちは——じりじりと近づいてくる。 逃げ場が——なくなってきた。 (どうする——どうする——) その時—— 一匹が——飛びかかってきた。 キィィィ!! グラニは——とっさにナイフを前に出した。 モンスターの爪と——ぶつかる。 ガキッ!! 腕が——しびれた。 ナイフが——弾かれた。 「っ!!」 グラニは——無防備になった。 モンスターが——二撃目を放とうとする。 (やられる——) その瞬間—— 石が——モンスターの頭に当たった。 ガッ!! 「グラニ! ナイフを拾え!!」 パイルの声。 グラニは——我に返った。 地面に落ちたナイフを——拾い上げる。 モンスターは——怯んでいた。 今だ。 グラニは——ナイフを振り下ろした。 「うああああ!!」 叫びながら——全力で。 ズブッ!! ナイフが——モンスターの首に刺さった。 キ……ィ…… モンスターが——倒れた。 「……っ」 グラニは——荒い息をついた。 手が——震えている。 ◆ 最後の一匹 残りは——一匹。 だが——その一匹が——逃げ出した。 キィィ…… 仲間がやられたのを見て——恐怖を感じたのだろう。 岩陰に——消えていった。 「……逃げた」 ナッドが、言った。 「追う?」 「いらない」 パイルが、首を振った。 「俺たちの目的は——軍隊長に知らせることだ。戦いじゃない」 ◆ 戦闘後 三人は——荒い息をついていた。 パイルの腕から——血が流れている。 「傷——大丈夫?」 グラニが、聞いた。 「かすり傷だ。問題ない」 パイルは——腕を布で巻いた。 「それより——お前」 「え?」 「よくやったな」 パイルが——グラニを見た。 「ビビってたけど——最後は倒した」 「……たまたまだよ」 「たまたまでも——倒したのは事実だ」 ナッドが、付け加えた。 「初めての実戦で——悪くない」 グラニは——何と言えばいいか分からなかった。 ただ——胸が熱くなった。 ◆ 前兆 休憩しようとした——その時。 遠くから——別の音が聞こえた。 今度は——違う音。 金属がぶつかる音。 そして——人の叫び声。 「……戦ってる」 ナッドが、言った。 「誰かが——戦ってる」 三人は——顔を見合わせた。 「軍隊長……?」 「分からない。でも——」 パイルが、立ち上がった。 「行くぞ」 三人は——音のする方へ走り出した。 ◆ 発見 丘を越えると—— そこに——光景が広がっていた。 戦場。 バルモラの武装奴隷たちが——モンスターと戦っていた。 だが——様子がおかしい。 奴隷たちが——押されている。 「……なんだ、あれ」 グラニが、息を呑んだ。 奴隷たちの相手は——さっきのトカゲ型ではなかった。 もっと——大きい。 犬のような形。 だが——皮膚がゴツゴツしている。 目が——三つある。 そして—— ゴォォォ!! 火を吐いた。 ◆ 圧倒的劣勢 「うわあああ!!」 奴隷の一人が——炎に包まれた。 緑色の肌をした——オーク種の戦士だった。 巨大な斧を持っていたが——炎の前には無力だった。 悲鳴。 倒れる。 「くそっ! 散れ! 散れ!!」 リーダーらしき男が——叫んでいる。 人間だった。 だが——統制が取れていない。 奴隷たちは——パニックになっていた。 火を吐くモンスターは——三匹。 奴隷たちは——二十人以上いたはずだが—— 今、立っているのは——十人ほど。 人間。 オーク。 獣人。 そして——ローブを纏った魔法使いらしき者も、二人いた。 「防壁を張れ!!」 リーダーが叫ぶ。 魔法使いの一人が——杖を振った。 青い光の壁が——展開される。 ゴォォォ!! 炎が——壁にぶつかった。 「っ……!」 魔法使いが——膝をついた。 壁が——揺らぐ。 「持たない……! 魔力が——!」 「もう一人! 援護しろ!」 もう一人の魔法使い——猫のような耳を持つ獣人だった——が、杖を構えた。 だが—— ゴォォォ!! 別のモンスターが——横から炎を吐いた。 「うわぁっ!!」 獣人の魔法使いが——吹き飛ばされた。 「……ひどい」 グラニが、呟いた。 「やられてる——完全に」 パイルも、顔色が悪かった。 奴隷たちは——必死に戦っていた。 獣人の戦士が——モンスターに斬りかかる。 だが——皮膚が硬い。 剣が——弾かれる。 「くそっ……!」 オーク種の別の戦士が——背後から斧を振り下ろす。 ザンッ!! 手応えがあった。 だが——モンスターは倒れない。 振り返り——オークを睨む。 ゴォォォ!! 炎が——直撃した。 「逃げればいいのに——なんで戦い続けてるんだ」 パイルが、呻いた。 「逃げられないんだよ」 ナッドが、冷たく言った。 「奴隷だから。命令されたことを——やり遂げるまで帰れない」 「種族が違っても——奴隷は奴隷なんだ」 ◆ 選択 「どうする……」 グラニが、聞いた。 「助ける——のか?」 パイルとナッドは——黙った。 あいつらは——軍隊長を追っていた敵だ。 助ける義理は——ない。 だが—— 「……見捨てるのも、なんか違うな」 パイルが、呟いた。 「でも——俺たちじゃ、あのモンスターには勝てない」 ◆ 軍隊長の視点 ——少し前。 軍隊長は——南部中間地点を目指していた。 単独行。 前回よりも——さらに奥を目指す。 だが——途中で気づいた。 (……後ろから、誰かがついてきている) 足跡。 気配。 人数は——多い。 (バルモラか) 軍隊長は——足を止めなかった。 罠を張る気かもしれない。 だが——今は関係ない。 目の前の目標に——集中する。 そう思っていた。 ——しかし。 遠くから——戦闘の音が聞こえてきた。 炎の轟音。 悲鳴。 モンスターの咆哮。 (……やられているな) 軍隊長は——立ち止まった。 振り返る。 煙が——立ち上っている。 (バルモラの奴隷たちか) 助ける義理は——ない。 むしろ——敵だ。 軍隊長を追っていた連中だ。 だが—— (……奴隷か) 軍隊長は——パイルとナッドのことを思い出した。 命令されれば、どこまでも従う。 逃げることすら——許されない。 (あいつらと——同じだ) 軍隊長は——足を踏み出した。 戦闘音の方へ。 (自分でも——何をしているのか分からん) だが——足は止まらなかった。 ◆ 介入 丘を越えると—— 惨状が広がっていた。 奴隷たちが——火を吐くモンスターに追い詰められている。 生き残りは——七、八人。 魔法使いは——もう立っていない。 戦士たちも——傷だらけだ。 そして—— 丘の手前に——三つの小さな影があった。 (……なんだ、あれは) 軍隊長は——目を細めた。 子ども。 三人の子ども。 (まさか——) グラニ。 パイル。 ナッド。 「——馬鹿者が」 軍隊長は——呟いた。 だが——今は叱っている場合ではない。 軍隊長は——走り出した。 ◆ 軍隊長 岩陰から——一人の男が現れた。 黒鉄と深紅の鎧。 長剣を構えている。 軍隊長。 「軍隊長!!」 グラニが、叫んだ。 軍隊長は——振り返らなかった。 前を見ている。 火を吐くモンスターを——見据えている。 (三匹か。厄介だな) だが——やるしかない。 「お前たちは——後ろに下がっていろ」 低い声。 奴隷たちにも——子どもたちにも——向けた言葉だった。 そして—— 軍隊長は——モンスターに向かって、走り出した。 ——第22話 終わり——