「激闘」 ◆ 軍隊長の突撃 軍隊長は——走っていた。 火を吐くモンスター——三匹。 一匹でも厄介な相手だ。 それが三匹。 だが——やるしかない。 「来い」 低い声。 モンスターの一匹が——軍隊長に気づいた。 振り返る。 三つの目が——ぎらりと光る。 ゴォォォ!! 炎が——放たれた。 軍隊長は——横に跳んだ。 炎が——地面を焦がす。 熱風が——頬をかすめる。 だが——止まらない。 炎の薄い部分を——見切る。 そこを——突破する。 一瞬で——モンスターの懐に入った。 「——遅い」 剣が——振り下ろされた。 ザンッ!! モンスターの首に——深い傷が刻まれる。 ギャアアア!! 悲鳴。 だが——倒れない。 皮膚が硬い。 一撃では——致命傷にならなかった。 ◆ 二匹目の攻撃 その隙に—— 別のモンスターが——横から襲いかかった。 ゴォォォ!! 炎が——軍隊長の背後に迫る。 「っ!」 軍隊長は——振り返りざまに剣を振った。 炎を——切り裂く。 いや——炎の勢いを逸らした。 だが——完全には防げなかった。 左腕に——熱が走った。 「ぐっ……!」 火傷。 鎧の隙間から——炎が入り込んだ。 肉が——焼ける匂い。 「軍隊長!!」 グラニの声が——聞こえた。 だが——振り返る余裕はない。 三匹目が——正面から突進してきた。 ◆ 奴隷たちの援護 その時—— 横から——斧が振り下ろされた。 ザンッ!! 三匹目のモンスターが——よろめいた。 「……っ」 軍隊長は——目を見開いた。 奴隷のリーダーだった。 人間の男。 傷だらけだが——立っていた。 「借りは——返す!」 リーダーが叫んだ。 背後から——獣人の戦士も駆けつける。 「まだ戦える!」 「援護する!」 生き残った奴隷たち——五、六人が、立ち上がっていた。 軍隊長は——一瞬、言葉を失った。 だが——すぐに切り替えた。 「一匹ずつ仕留める! 俺が前に出る!」 「了解!」 奴隷たちが——軍隊長の後ろに続いた。 ◆ 共闘 傷を負ったモンスターが——咆哮した。 ゴォォォ!! 炎を——吐こうとする。 「させるか!」 軍隊長が——飛び込んだ。 剣が——モンスターの顎を下から突き上げる。 ズブッ!! 炎が——途切れた。 「今だ!!」 リーダーが——斧を振り下ろす。 獣人の戦士が——背後から剣を突き刺す。 ギャアアア!! モンスターが——崩れ落ちた。 「一匹!」 「あと二匹!」 だが——残りの二匹は、警戒していた。 距離を取り——じりじりと後退している。 「逃がすな!」 軍隊長が——追撃しようとした。 その時—— 二匹のモンスターが——別々の方向に走り出した。 ◆ 分断 一匹は——軍隊長たちの方へ。 もう一匹は—— 「——グラニ!!」 軍隊長が、叫んだ。 モンスターが——子どもたちの方へ向かっていた。 ◆ グラニたちの危機 「来る!!」 パイルが、叫んだ。 モンスターが——こちらに向かってくる。 巨大な体。 三つの目。 そして——口から漏れる熱気。 「逃げろ!」 パイルが、グラニを押した。 「走れ! 俺たちが時間を稼ぐ!」 「でも——!」 「いいから走れ!!」 パイルとナッドが——剣を構えた。 だが——二人とも、顔色が悪かった。 さっきのトカゲ型とは——比べ物にならない。 火を吐くモンスター。 勝てる相手じゃない。 グラニは——足が動かなかった。 恐怖で——体が固まっている。 (動け——動け——) モンスターが——口を開けた。 炎を吐く——前兆。 ◆ 軍隊長の教え その瞬間—— グラニの頭に——言葉が浮かんだ。 『動くな。立っていろ』 軍隊長の——教え。 第6話で——教わったこと。 『待つことの大切さを学べ』 グラニは——息を止めた。 モンスターを——見つめる。 口が——開いていく。 熱気が——漏れ出す。 (まだだ——まだ——) 炎が——放たれようとする—— (——今だ!!) グラニは——横に転がった。 ゴォォォ!! 炎が——グラニがいた場所を焼き尽くす。 熱風が——体をかすめる。 「グラニ!!」 パイルの声。 だが——グラニは無事だった。 ギリギリで——避けた。 ◆ 連携 「今だ!!」 ナッドが——叫んだ。 モンスターは——炎を吐いた直後。 一瞬の——隙がある。 パイルとナッドが——同時に飛びかかった。 「おおおおお!!」 パイルが——剣を振り下ろす。 モンスターの前足に——斬りつけた。 ザンッ!! 「っ!」 皮膚が硬い。 浅い傷しか——つかない。 だが——モンスターがよろめいた。 その隙に—— ナッドが——背後に回り込んだ。 「——そこ」 冷静に——急所を見極める。 首の付け根——鱗が薄い場所。 剣を——突き刺した。 ズブッ!! 「ギャアアア!!」 モンスターが——悲鳴を上げた。 だが——まだ倒れない。 暴れる。 尾が——ナッドを弾き飛ばした。 「きゃっ!」 ナッドが——地面に転がる。 「ナッド!!」 パイルが、叫んだ。 モンスターが——ナッドに向き直った。 口が——開く。 炎が—— ◆ トドメ その瞬間—— 横から——剣が飛んできた。 ザンッ!! モンスターの首に——深々と刺さった。 軍隊長の剣だった。 投げたのだ。 モンスターが——動きを止めた。 目から——光が消えていく。 そして——地面に崩れ落ちた。 「……っ」 グラニは——息を呑んだ。 軍隊長が——走ってきた。 もう一匹のモンスターは——奴隷たちが抑えていたらしい。 背後で——奴隷たちの歓声が聞こえた。 「やった——倒した!!」 「勝った!!」 三匹すべてを——倒したのだ。 ◆ 軍隊長の叱責 軍隊長は——グラニたちの前に立った。 息が荒い。 左腕の火傷が——痛々しい。 「……馬鹿者が」 低い声。 「なぜ——ここにいる」 グラニは——顔を上げた。 「バルモラが——後を追ってたから——」 「知らせに——来たんです」 パイルが、付け加えた。 「俺たちも——同じです」 ナッドも——立ち上がりながら言った。 軍隊長は——三人を見つめた。 「……」 長い沈黙。 「死んでいたかもしれんぞ」 「はい……」 グラニは——うつむいた。 「でも——」 「でも?」 「軍隊長が——危ないと思ったから」 グラニは——顔を上げた。 目に——涙が滲んでいた。 「知らせなきゃって——思ったから——」 軍隊長は——何も言わなかった。 ただ——グラニの頭に、手を置いた。 「……馬鹿者だ」 でも——声は、怒りだけではなかった。 ◆ 奴隷たちとの対話 戦闘が終わり—— 生き残った奴隷たちが——集まってきた。 リーダーの男。 獣人の戦士。 そして——傷ついた仲間たち。 全部で——六人。 元は二十人以上いたはずだ。 「……助けてくれたのか」 リーダーが——軍隊長に向かって言った。 「我々は——あなたを追っていたのに」 軍隊長は——リーダーを見た。 「知っている」 「なぜ——助けた」 「……分からん」 軍隊長は——正直に答えた。 「自分でも——分からん」 リーダーは——しばらく黙っていた。 そして——頭を下げた。 「……恩に着る」 「借りは——いつか返す」 ◆ 帰還の判断 軍隊長は——南を見た。 目標だった——南部中間地点。 まだ——遠い。 「……今日はここまでだ」 軍隊長は、言った。 「帰る」 「軍隊長——」 パイルが、何か言いかけた。 「目標に——届かなくても、いいんですか」 「届かん」 軍隊長は——短く答えた。 「お前たちを——連れて帰る方が先だ」 そして——奴隷たちを見た。 「お前たちも——帰れ」 リーダーが——顔を歪めた。 「我々は——命令を果たすまで——」 「大商人に伝えろ」 軍隊長は——リーダーの目を見た。 「『アルダの軍隊長が、奴らを帰した』と」 「俺の名で——帰らせた」 「それで——文句は言わせん」 リーダーは——目を見開いた。 「……いいのか」 「いい」 軍隊長は——背を向けた。 「生きて帰れ。死ぬな」 その言葉は——グラニたちに言ったのと、同じだった。 ◆ 異変 その時—— 地面が、揺れた。 ドン……ドン……ドン…… 「……!」 軍隊長が——足を止めた。 足音。 何かが——近づいてくる。 (この振動は——) 軍隊長の顔色が——変わった。 「まさか——」 丘の向こうから——影が現れた。 巨大な、四足の獣。 体高は——二メートルほど。 全身が——鱗のような甲羅で覆われている。 目は——赤く光っている。 「あの時の——!」 軍隊長が——叫んだ。 「なぜ——ここに——!」 ◆ 騒ぎに惹かれて グラニは——その獣を見て、体が固まった。 火を吐くモンスターとは——まるで違う。 もっと——重い。 もっと——危険。 空気そのものが——押しつぶされるような圧力。 「軍隊長——あれは——」 パイルが、震える声で聞いた。 「前に——単独で南部を探索した時に——遭遇した獣だ」 軍隊長は——剣を構えた。 グルルルルル…… 獣が——唸り声を上げた。 こちらを——睨みつけている。 「戦闘の騒ぎに——惹かれてきたのか」 軍隊長の目が——鋭くなった。 「全員——下がれ」 ◆ 軍隊長の判断 奴隷のリーダーが——斧を構えた。 「援護する——!」 「来るな」 軍隊長は——厳しく言った。 「あれは——お前たちの相手ではない」 「しかし——」 「俺が引きつける。その間に——全員逃げろ」 「軍隊長!!」 グラニが——叫んだ。 「一人で——そんな——!」 「黙れ」 軍隊長は——振り返らなかった。 「お前たちを——ここで死なせるわけにはいかん」 獣が——一歩、踏み出した。 地面が——揺れる。 「来い」 軍隊長は——獣に向かって歩き出した。 ◆ さらなる異変 その瞬間—— 別の方向から——さらに重い振動が伝わってきた。 ドン……ドン……ドン……ドン…… 「……っ!?」 軍隊長が——足を止めた。 振り返る。 (まさか——) 丘の別の方向から—— もう一つの影が現れた。 巨大な、四足の獣。 今度のは——さらに大きい。 体高だけで——三メートル以上。 グォォォォォ!! 咆哮。 空気が——震えた。 「嘘だろ……」 パイルが——声を失った。 「二匹……?」 ナッドも——顔面蒼白だった。 軍隊長は——二匹の獣を見比べた。 そして——気づいた。 (こいつが——あの時の獣……!) (そうか——さっきのは子どもだったのか——!) 小さい方は——子ども。 大きい方は——親。 (子どもが騒ぎを聞きつけて来た……そして、親が子どもを追いかけてきた——) 最悪の状況だった。 ◆ 絶望的な戦況 軍隊長は——左腕の火傷を見た。 満身創痍。 火を吐くモンスターとの戦闘で——体力も消耗している。 奴隷たちも——傷だらけだ。 子どもたちは——戦力にならない。 (勝てない) 冷静に——分析する。 (勝てるわけがない) 二匹の獣が——じりじりと距離を詰めてくる。 親子で——こちらを包囲するように動いている。 (どうする——) 軍隊長は——剣を握りしめた。 (全員を逃がすには——俺が囮になるしかない) (だが——それで、俺は生きて帰れるのか) 答えは——分かっていた。 ◆ グラニの恐怖 グラニは——動けなかった。 二匹の獣。 あまりにも——巨大。 あまりにも——強大。 火を吐くモンスターが——可愛く見えるほど。 (無理だ——) (ボクたち——全員——死ぬ——) 足が——震えている。 涙が——込み上げてくる。 「軍隊長……」 声が——震えていた。 「ボク——どうすれば——」 軍隊長は——グラニを見た。 「逃げろ」 短い言葉。 「俺が——時間を稼ぐ」 「でも——」 「これは命令だ」 軍隊長の目が——真剣だった。 「生きて帰れ。死ぬな。何があっても」 あの日——出発する時に言われた言葉と、同じだった。 グラニは——何も言えなかった。 ◆ 親子の獣 二匹の獣が——同時に動いた。 子どもの方が——先に飛びかかる。 グルァァァ!! 軍隊長が——横に跳んだ。 爪が——地面を抉る。 土煙が——舞い上がる。 「くそっ……!」 軍隊長が——反撃しようとした。 その瞬間—— 親の獣が——横から突進してきた。 ドォン!! 軍隊長が——弾き飛ばされた。 「軍隊長!!」 グラニが——叫んだ。 軍隊長は——地面を転がりながらも、立ち上がった。 だが——口から血が流れている。 「っ……肋骨が——」 軍隊長の動きが——明らかに鈍くなっていた。 ◆ 絶体絶命 二匹の獣が——軍隊長を挟み込む。 左右から——じりじりと近づいてくる。 逃げ場が——ない。 「軍隊長!!」 パイルが——剣を持って飛び出そうとした。 「来るな!!」 軍隊長が——怒鳴った。 「お前たちは——逃げろ!! 今すぐ——!!」 だが——パイルもナッドも、動けなかった。 軍隊長を置いて——逃げることなど、できなかった。 奴隷たちも——同じだった。 リーダーが——斧を構えて前に出ようとする。 獣人の戦士たちも——剣を握りしめている。 「逃げるわけには——いかない……!」 「借りを——返すまでは——!」 だが——彼らが向かったところで、何ができる。 火を吐くモンスターにすら、手こずっていたのだ。 この獣には——歯が立たない。 グルルルルル…… 親の獣が——口を開けた。 牙が——剥き出しになる。 (終わりだ——) グラニは——そう思った。 ——第23話 終わり——