「再起」 ◆ 帰路 夕暮れの中——一行は港へ向かっていた。 ゆっくりと——歩いている。 パイルは——獣人の戦士に抱えられていた。 顔色は——まだ悪い。 だが——息はしている。 先生の応急処置が——効いている。 軍隊長も——歩けなかった。 レインとシエルに——支えられている。 「……情けないな」 軍隊長は——呟いた。 「こんな姿を——晒すとは」 「生きているだけ——良しとしなさい」 シエルが言った。 「あの獣相手に——生き残っただけで、十分ですよ」 軍隊長は——何も言わなかった。 だが——その言葉は、心に響いていた。 ◆ グラニの沈黙 グラニは——黙って歩いていた。 ナッドが——隣にいる。 二人とも——言葉がなかった。 獣人に抱えられたパイルを——見つめている。 背中の傷は——布で覆われていた。 血が——滲んでいる。 「……ナッド」 グラニが——口を開いた。 「ボクのせいだ」 「違う」 ナッドが——即座に否定した。 「パイルは——自分で選んだの」 「でも——ボクがもっと強ければ——」 「それを言ったら——あたしもよ」 ナッドは——涙を拭った。 「あたしが——もっと強ければ、パイルは庇わなくてよかった」 「でも——そうじゃない」 ナッドは——グラニを見た。 「パイルは——あたしたちを守りたかったの」 「それが——パイルの選択」 グラニは——何も言えなかった。 ただ——涙が溢れた。 ◆ 先生との会話 先生が——グラニの横に来た。 「泣いているの?」 「……はい」 グラニは——正直に答えた。 「パイルが——ボクを庇って——」 「ええ。見ていましたわ」 先生は——杖をくるくる回した。 「あなた——無力感で苦しんでいるのね」 「……はい」 「何もできなかった——と」 「……はい」 先生は——少し笑った。 「それは——いい感情ですわ」 「え……?」 グラニは——顔を上げた。 「悔しいと思える——それは、上を目指している証拠」 先生は——グラニを見た。 「満足していたら——悔しくならない」 「あなたは——まだ、成長できるってことですわ」 グラニは——言葉を失った。 「……先生」 「何?」 「ボク——強くなりたいです」 グラニは——真っ直ぐに先生を見た。 「今日みたいなこと——二度と起こしたくない」 「パイルや——みんなを——守れるようになりたい」 先生は——微笑んだ。 「いい目ですわね」 「その気持ちを——忘れないで」 ◆ 夕暮れの港 港が——見えてきた。 夕日が——海を染めている。 オレンジ色の光が——全員を照らしていた。 「おいおい〜……何があったんだ〜?」 グリーンが——出迎えた。 抱えられたパイルを見て——目を見開いた。 「こりゃひどいな〜。ヒミコのところに運べ〜」 奴隷たちが——パイルを運んでいく。 「軍隊長も——ボロボロじゃねぇか〜」 「ああ……」 軍隊長は——苦笑した。 「情けない姿だ」 「生きてりゃいいんだよ〜」 グリーンは——軍隊長を見た。 「死んでたら——話にならねぇからな〜」 「……そうだな」 軍隊長は——ゆっくりと歩いていった。 ヒミコのポーション屋へ。 ◆ 先生との別れ 先生は——港で立ち止まった。 「私は——船に戻りますわ」 「先生——ありがとうございました」 グラニが——頭を下げた。 「助けてくれて——」 「いえいえ」 先生は——杖をくるくる回した。 「借りが——また増えましたわね」 「それに——面白いものを見せてもらいましたわ」 「面白いもの……?」 「あなたたちの——戦い」 先生は——グラニを見た。 「弱いくせに——諦めない。無力なのに——立ち向かう」 「それは——とても、いいものですわ」 グラニは——何と言えばいいか分からなかった。 「また——会いましょう」 先生は——背を向けた。 レインとシエルが——後に続く。 「グラニ——」 レインが——振り返った。 「強くなれ」 シエルも——頷いた。 「私たちも——まだ強くなる」 「いつか——一緒に戦えるといいな」 二人は——先生の後を追っていった。 ◆ ヒミコのポーション屋 パイルは——ヒミコのポーション屋に運ばれた。 ヒミコは——傷を見て、眉をしかめた。 「これは——ひどいね」 「助かりますか……?」 ナッドが——震える声で聞いた。 「助かるよ」 ヒミコは——ポーションを取り出した。 「先生の応急処置が良かった。血が止まってる」 「これから——治療にかかるけど、命は助かる」 「よかった……」 ナッドが——膝から崩れ落ちた。 「よかった……パイル……」 泣きながら——パイルの手を握った。 ◆ パイルの意識 「……うるせぇよ」 弱々しい声が——聞こえた。 「パイル!?」 ナッドが——顔を上げた。 パイルは——薄く目を開けていた。 「泣くな……みっともない……」 「馬鹿! あんたが——あんたが——!」 ナッドは——さらに泣いた。 「庇ったりするから——!」 「仕方ねぇだろ……」 パイルは——弱々しく笑った。 「お前と——グラニが、死んだら——」 「俺が——困る……」 「馬鹿……馬鹿……!」 ナッドは——パイルの手を握りしめた。 グラニも——そばにいた。 「パイル……ごめん……」 「謝んな」 パイルは——グラニを見た。 「お前のせいじゃ——ねぇよ」 「俺が——弱ぇから庇ったんじゃねぇ」 「お前らを——守りたかっただけだ」 グラニは——涙が止まらなかった。 「パイル……」 「だから——」 パイルは——目を閉じた。 「強くなれよ……グラニ……」 「次は——お前が守る番だ……」 そう言って——パイルは、意識を失った。 疲労と——ポーションの効果で、眠りに落ちたのだ。 ◆ 軍隊長の言葉 グラニは——ポーション屋を出た。 外は——もう暗くなっていた。 星が——輝き始めていた。 軍隊長が——ベンチに座っていた。 肋骨を——包帯で巻いている。 「……座れ」 軍隊長が——言った。 グラニは——隣に座った。 しばらく——沈黙が続いた。 「お前——今日、何を感じた」 軍隊長が——聞いた。 「……悔しかったです」 グラニは——正直に答えた。 「何もできなかった。パイルを——庇えなかった」 「ボクは——ただ、泣いてるだけだった」 「そうだな」 軍隊長は——否定しなかった。 「お前は——弱い」 「はい……」 「だが——」 軍隊長は——グラニを見た。 「お前は——逃げなかった」 「え……?」 「恐怖で動けなかったかもしれない。でも——逃げようとはしなかった」 「パイルのそばに——いた」 「それは——弱さじゃない」 グラニは——何も言えなかった。 「強さは——二種類ある」 軍隊長は——星を見上げた。 「戦う力と——折れない心」 「お前には——戦う力がない。それは事実だ」 「だが——心は、折れていない」 「それがあれば——いくらでも強くなれる」 軍隊長は——立ち上がった。 「強くなれ、グラニ」 「次は——自分で守れ」 グラニは——頷いた。 「……はい」 声が——震えていた。 「絶対に——強くなります」 ◆ グラニの帰宅 グラニは——家に帰った。 体中が——疲れている。 心も——疲れている。 でも——足は、しっかりと地面を踏んでいた。 「ただいま」 扉を開ける。 「グラニ!!」 母が——飛び出してきた。 「どこ行ってたの!! 心配したのよ!!」 「ごめん……」 グラニは——母に抱きしめられた。 温かい。 母の腕が——温かい。 「……ごめん」 涙が——また溢れた。 今日——何があったか。 まだ——全部は話せない。 でも——いつか、話せる日が来る。 強くなったら。 もっと——強くなったら。 「お母さん」 グラニは——言った。 「ボク——強くなりたい」 母は——何も言わなかった。 ただ——グラニを抱きしめていた。 ◆ 夜の誓い グラニは——自分の部屋に戻った。 布団に——横になる。 天井を——見つめる。 今日の出来事が——頭の中で繰り返される。 パイルの血。 自分の無力さ。 先生の魔法。 ツインボーンの連携。 軍隊長の言葉。 「強くなれ——次は自分で守れ」 グラニは——拳を握りしめた。 「強くなる」 声に出して——言った。 「絶対に——強くなる」 「パイルみたいに——誰かを守れるように」 「軍隊長みたいに——最後まで戦えるように」 涙が——枕を濡らした。 でも——今日の涙は、悔しさだけじゃない。 決意の涙だ。 「見てろよ——」 グラニは——呟いた。 「ボクは——必ず強くなる」 ◆ ファーニアの船 先生は——船に戻った。 甲板を歩き——船室へ向かう。 扉を開けると——湯気が漂っていた。 助手が——待っていた。 「お帰りなさいませ、先生」 助手は——深く頭を下げた。 「まずは汗をお流しください。お風呂の準備ができております」 「そうするわ」 先生は——ため息をついた。 「久しぶりに——本気を出しましたわ」 助手は——先生のローブを受け取った。 「そのようですね。やはり——双極島の壁は高いですか?」 先生は——服を脱ぎながら答えた。 白い肌。 美しい曲線。 「そうね——少し、甘く見ていたようですわ」 先生は——湯舟に身を沈めた。 温かい湯が——疲れた体を包む。 「あの獣——なかなか手強かった」 「本気の魔法を使わざるを得なかったのですね」 「ええ——久しぶりに焦りましたわ」 先生は——目を閉じた。 助手は——タオルを用意しながら言った。 「これは——久しぶりに苦労しそうですね」 「『計画』に遅れが出るようでしたら——大陸に便りを入れます」 「計画——ね」 先生は——湯の中で伸びをした。 「困ったものですわね〜……あ〜、疲れましたわ」 「お食事——用意してまいります」 助手は——一礼して、船室を出ていった。 先生は——一人、湯舟の中で呟いた。 「双極島——北の領域……」 「思ったより——厄介ですわね」 だが——目は、まだ輝いていた。 「でも——だからこそ、面白い」 先生は——微笑んだ。 「楽しみですわ——これからが」 ◆ 夜の港 グリーンは——一人で港を眺めていた。 星が——輝いている。 波の音が——静かに響いている。 「……面白くなってきたねぇ〜」 グリーンは——呟いた。 今日の出来事。 軍隊長の奮闘。 バルモラ奴隷との共闘。 巨大な四足獣の親子。 先生とツインボーンの救援。 そして——グラニの涙。 (あの子——変わったねぇ) グリーンは——サングラスの奥で目を細めた。 出会った頃は——ただの島の子どもだった。 好奇心旺盛で——無鉄砲で——怖いもの知らず。 でも——今日、初めて本当の恐怖を知った。 本当の無力さを知った。 そして——本当の悔しさを知った。 (ここからだねぇ〜) グリーンは——にっと笑った。 (グラニが——どう成長するか) (ますます楽しみだねぇ〜) 夜風が——吹き抜けていった。 新しい朝が——もうすぐ来る。 ——第25話 終わり——