「賑わい」 ◆ 五日後の朝 戦いから——五日が過ぎた。 グラニは——港の受付で、目を丸くしていた。 「すごい……」 港が——人で溢れていた。 船。 人。 そしてまた——船。 見たこともない数の船が、港に並んでいる。 ステリアの青と白。 イグナの赤と黒。 ファーニアの白と金。 そして——各大陸から来た小さな船が、無数に。 「グラニ〜! ぼーっとしてる暇はないぞ〜!」 グリーンが——受付の窓から叫んだ。 「次のお客さんが来てるぞ〜!」 「あっ、ごめん!」 グラニは——慌てて走り出した。 ◆ 大忙し 「ここが受付か?」 「南の領域への申請は——」 「宿の紹介を頼む!」 「ポーション屋はどこだ?」 次から次へと——挑戦者たちが押し寄せてくる。 グラニは——必死に対応した。 「えっと、南の申請はこちらで——」 「宿はヘイタの宿屋か、港の奥の——」 「ポーション屋はあっちの通りを——」 グリーンが——横で笑っていた。 「いいぞ〜、グラニ〜! その調子だ〜!」 「グリーンさんも手伝ってよ!」 「俺は今、大事な商談中だからな〜」 グリーンは——大陸の商人と何やら話し込んでいる。 金の話らしい。 「もう……!」 グラニは——額の汗を拭いた。 ◆ 賑わう港町 昼過ぎ。 グラニは——やっと休憩を取れた。 港町を歩く。 どこもかしこも——人で溢れていた。 「へぇ〜! こんな品物、見たことない!」 露店には——各大陸の珍しい品物が並んでいる。 ステリアの貝細工。 イグナの火山石のアクセサリー。 ファーニアの魔道具。 「おい少年! これを見てくれ! 一つ銀貨2枚だ!」 「えっ、いや、ボクお金持ってないし——」 「じゃあ親に言ってこい! 今日限りの特価だぞ!」 商人たちの声が——飛び交う。 島民たちも——珍しげに品物を見ている。 「すごいね! こんなの初めて見た!」 「これ、魔法がかかってるんだって!」 子どもたちの歓声。 大人たちの驚き。 港町は——お祭りのように賑わっていた。 ◆ ビッグイーターにて グラニは——ビッグイーターの前を通りかかった。 レストランは——大繁盛だった。 「肉だ! 肉を持ってこい!」 「酒が足りないぞ!」 「この島の料理は最高だな!」 挑戦者たちが——テーブルを囲んでいる。 フェズが——料理を運んで駆け回っていた。 「フェズ! 大変そうだね!」 「グラニ! 助けてくれ——!」 フェズは——泣きそうな顔だった。 「ユキナさん、今日だけで普段の十倍作ってるんだよ……!」 「十倍……!?」 「もう腕がパンパンだよ……!」 厨房から——巨大な鍋が運ばれてくる。 ユキナの声が響いた。 「手を止めるな! お客さんを待たせるんじゃないよ!」 「はい——!」 フェズは——また走っていった。 グラニは——思わず笑ってしまった。 「みんな大変だ……」 ◆ 酒場の喧騒 ドロップライト——港の飲み屋。 昼間から——騒がしかった。 「俺が南の領域を制覇してやる!」 「何を言ってる! 俺の方が先だ!」 「お前らじゃ無理だ! 俺に任せろ!」 挑戦者たちが——意気込みを語り合っている。 「我こそは——!」という声が、あちこちから聞こえる。 ニアーが——客の対応で忙しそうだった。 「はいはい、注文は順番に! 押すんじゃないよ!」 「姉さん、もう一杯頼む!」 「姉さんじゃないっての! ニアーって名前があるんだよ!」 グラニは——入り口から覗くだけにした。 「すごい熱気だな……」 ◆ 情報交換 酒場の一角では——真剣な話し合いが行われていた。 「南の領域——入り口から三時間のところに、火を吐くモンスターがいる」 「ああ、聞いたことがある。三つ目の犬型だろう?」 「それだ。皮膚が硬くて、剣が通りにくい」 「対策はあるのか?」 「魔法で弱点を狙うか、複数人で連携するしかないな」 挑戦者たちが——情報を交換していた。 メモを取る者。 地図を広げる者。 経験者から話を聞く者。 「北の領域はどうなんだ?」 「魔素が濃い。普通の人間なら、入り口付近でも気分が悪くなる」 「ファーニアの魔法使いたちなら平気かもしれないが——」 「俺たちは厳しいな」 真剣な顔。 命がかかっている——その重みが、伝わってくる。 ◆ 古豪たちの登場 港の広場で——人だかりができていた。 グラニは——人混みをかき分けて見に行った。 「おい、あれを見ろ——」 「嘘だろ……あの人が来たのか……!」 中央に——三人の男が立っていた。 一人は——白髪の老戦士。 傷だらけの顔。 そして——片腕がなかった。 「あれは——"伝説の帰還者"ゴルド・ルーンだ……!」 「南の領域の中間地点に到達した——唯一の人間……!」 「生きてたのか……! 引退したって聞いてたのに——」 もう一人は——体高2メートルを超える巨漢。 赤い肌。 体表に——炎のような亀裂が走っている。 「"炎の拳"——ボルガ・フレイム……!」 「イグナの武神派幹部だぞ……!」 「なんでこんな大物が……!」 三人目は——獣人だった。 狼のような顔。 体格は良好で——顔には戦いの傷。 「あれは——"鉄の牙"ヴォルグ・ハウル……!」 「ステリアの部族長だ!」 「若者を双極島に送るって話だったのに——本人まで来たのか……!」 グラニは——三人を見上げた。 すごい。 圧倒的な存在感。 片腕のゴルドでさえ——周りの挑戦者たちとは、格が違う。 (これが——伝説の挑戦者たち……) 心が——震えた。 ◆ 古豪との邂逅 「おや——小さな子どもが見ているな」 片腕の老戦士——ゴルド・ルーンが——グラニに気づいた。 「お、おい——ゴルドさんがこっちを見てる——!」 周りの挑戦者たちが——ざわついた。 ゴルドは——ゆっくりとグラニに近づいた。 残った片腕で——グラニの顔を覗き込む。 「少年。お前、この島の子どもか?」 「は、はい……!」 グラニは——緊張で声が震えた。 「……いい目をしている」 ゴルドは——にやりと笑った。 「俺が若い頃——こういう目をした奴らが、一番化けた」 「え……ボ、ボクが……?」 「鍛えろ。この島には——良い師匠がいるはずだ」 ゴルドは——そう言って、去っていった。 グラニは——しばらく動けなかった。 (今——伝説の帰還者に声をかけられた……!) (南の領域の中間地点に到達した——唯一の人間に……!) 心臓が——ばくばくと鳴っていた。 ◆ 軍隊長の場所 ヒミコのポーション屋。 軍隊長は——店の奥で療養していた。 傷は——だいぶ治ってきていた。 だが——まだ完治ではない。 「軍隊長! ちょっといいか!」 「軍隊長殿! 話を聞かせてくれ!」 「アルダの軍隊長だろ? 南の領域、どこまで行った!?」 店の外には——挑戦者たちが集まっていた。 軍隊長は——面倒そうな顔をしていた。 「……静かにしろ」 「答えてくれよ! 火を吐くモンスターの情報を——」 「巨大な四足獣の話は本当か!?」 「どうやって生き残ったんだ!?」 質問が——矢継ぎ早に飛んでくる。 軍隊長は——深くため息をついた。 「……自分で確かめろ」 「そんな——!」 「知りたければ——自分の足で行け。俺の言葉を聞いても、意味はない」 軍隊長は——厳しく言った。 「あの領域は——言葉では伝わらん。体で知れ」 挑戦者たちは——不満そうだったが、 軍隊長の迫力に——押されて引き下がった。 ◆ リーダーとの再会 挑戦者たちが去った後—— 一人の男が、店に入ってきた。 人間の男。 傷だらけだが——立って歩いている。 バルモラの奴隷——リーダーだった。 「……生きていたか」 軍隊長が、言った。 「あんたのおかげだ」 リーダーは——頭を下げた。 「借りは——まだ返せていない」 「返さなくていい」 「いや。返す」 リーダーは——真剣な目で言った。 「俺たちは——大商人のもとに戻る。だが——いつか必ず、借りを返す」 「勝手にしろ」 軍隊長は——素っ気なく答えた。 だが——その目は、どこか温かかった。 リーダーは——もう一度頭を下げて、店を去っていった。 ◆ 先生の訪問 夕方。 ポーション屋に——新たな客が来た。 白いローブ。 金色の杖。 そして——上機嫌な笑顔。 先生だった。 「あらあら。まだ傷が痛みますの? 隊長さん」 「……何の用だ、大魔法使い」 軍隊長は——警戒した目で先生を見た。 「お見舞いですわ」 先生は——店の中に入ってきた。 ヒミコは——奥で作業をしている。 二人きりになった。 「……本当の用件は何だ」 「あら、分かりますの?」 先生は——くすりと笑った。 そして——表情を少し真剣にした。 「提案がありますわ」 ◆ 共闘の提案 「提案……?」 「ええ」 先生は——杖をくるくると回した。 「貸しが——まだ残っていますわよね、隊長さん」 「……」 軍隊長は——沈黙した。 あの戦い。 先生とツインボーンが助けに来なかったら——全滅していた。 それは——事実だ。 軍隊長には——借りがある。 「……返す必要はない、と言ったはずだ」 「あら。借りを返さないおつもり?」 先生は——にっこり笑った。 「そんな素敵なお方が? 貸しは——ちゃんと返していただきますわ」 「……」 「でも——今すぐとは言いませんの」 先生は——軍隊長の目を見た。 「代わりに——手を組みませんこと?」 「手を組む……?」 「共闘ですわ。一緒に挑戦に挑みましょう」 軍隊長は——眉をひそめた。 「俺は一人で戦う」 「あら、つれないですわね」 先生は——杖を軽く振った。 金色の光が——軍隊長の傷口に触れた。 「っ——」 温かい感覚。 痛みが——少し和らいだ。 「この傷——私の魔法で、今すぐ完治させられますわ」 「……何?」 「手を取ってくださるなら——遅れを取らずに済みますわよ?」 先生は——微笑んだ。 「他の挑戦者たちに——先を越されたくはないでしょう?」 「古豪たちも来ていますわ。"伝説の帰還者"ゴルド・ルーン。"炎の拳"ボルガ・フレイム。そして——"鉄の牙"ヴォルグ・ハウル」 「あなたが療養している間に——彼らが先に到達したら……」 先生は——言葉を切った。 軍隊長は——沈黙していた。 プライドと——実利。 葛藤が——その顔に浮かんでいた。 ◆ 回答は保留 「……考えさせろ」 軍隊長は——そう答えた。 「あら、即答ではないのですね」 「俺の流儀がある」 軍隊長は——先生を見た。 「お前と組むメリットは分かる。だが——」 「デメリットも考えたい、と?」 「ああ」 先生は——くすりと笑った。 「いいですわ。待ちましょう」 そして——立ち上がった。 「でも——あまり長くは待てませんわよ?」 「挑戦開始は——六日後ですもの」 先生は——優雅に店を出ていった。 軍隊長は——一人、考え込んでいた。 ◆ 王の演説 翌日。 港の広場に——全員が集まった。 仮設の舞台が——設置されていた。 その上には—— 双極島の王が立っていた。 白い髭。 威厳のある目。 傍らには——チーの姿もあった。 「皆の者——!」 王の声が、広場に響いた。 「双極島へ、ようこそ!」 歓声が上がる。 「この島は——古来より、挑戦者たちを迎えてきた!」 王は——力強く語った。 「北には魔神の領域! 南には武神の領域!」 「どちらも——人類未踏の地!」 「誰も——中心には到達できていない!」 広場が——静まり返った。 全員が——王の言葉に聞き入っている。 「だが——それこそが、挑戦の価値!」 王は——拳を掲げた。 「お前たちは——歴史に名を刻む可能性を持っている!」 「北か! 南か! どちらを選んでも良い!」 「挑戦開始は——六日後!」 「それまでは——この島を楽しめ!」 「そして——名声を刻め!!」 広場が——爆発するような歓声に包まれた。 ◆ チーの言葉 演説の後—— チーが、グラニのもとにやってきた。 「グラニ! 久しぶり!」 「あ、チー! 元気だった?」 「もちろん! わたくし——魔法のお勉強を始めましたの!」 チーは——嬉しそうに言った。 「先生に——基礎から教えていただいていますわ!」 「すごいね! 魔法、使えるようになった?」 「まだまだですわ。でも——少しずつ、光が出せるようになりましたの!」 チーは——手のひらに集中した。 ぽわん——と、小さな光が灯った。 「おお! すごい!」 「ふふ。まだこれだけですけど」 チーは——照れたように笑った。 「グラニは——どうなの? 訓練、続けている?」 「うん。毎日——素振りと走り込みをしてるよ」 「えらいですわね」 チーは——真剣な目になった。 「わたくしも——負けないように頑張りますわ」 「うん。ボクも——負けないよ」 二人は——笑い合った。 ◆ パイルの窓 グラニは——ヒミコの店に向かった。 パイルは——まだ療養中だった。 窓から——顔を出している。 「おい、グラニ」 「パイル! 起きてたんだ」 「当たり前だろ。こんな騒ぎで寝てられるかよ」 パイルは——少し元気そうだった。 傷は——まだ痛むらしいが。 「外——すごいことになってるな」 「うん。挑戦者がいっぱい来てる」 「俺も——早く動きてえ」 パイルは——悔しそうに言った。 「こんな時に——寝てるなんてよ」 「無理しちゃダメだよ。ヒミコさんに怒られるよ」 「分かってるよ……」 パイルは——ため息をついた。 ナッドが——横から顔を出した。 「パイル。薬の時間」 「はいはい……」 パイルは——しぶしぶ窓から引っ込んだ。 ナッドが——グラニを見た。 「……ありがと。見に来てくれて」 「うん。また来るね」 グラニは——手を振って去っていった。 ◆ 夕暮れの港 夕日が——海に沈んでいく。 グラニは——港の端に座っていた。 今日、見たもの。 賑わう港町。 露店。 酒場の喧騒。 古豪たちの存在感。 軍隊長への質問攻め。 王の演説。 チーの成長。 そして——パイルの回復。 (すごい一日だったな……) グラニは——空を見上げた。 星が——輝き始めていた。 「どうだった〜? 今日は」 グリーンが——横に座った。 「すごかったよ。こんなに人が来るなんて……」 「この島は——世界の交差点だからねぇ〜」 グリーンは——にっと笑った。 「大陸の人間たちが——こうして集まる。面白いだろ〜?」 「うん……」 グラニは——また古豪たちのことを思い出した。 「ゴルドさんって人に——声をかけられたんだ」 「おお! 伝説さんにか〜!」 グリーンは——目を見開いた。 「あの人——南の中間地点に到達した唯一の男だぞ〜。それで声かけられたのか〜」 「『いい目をしている。鍛えろ』って言われた」 「へぇ〜」 グリーンは——グラニを見た。 「そりゃ——光栄だな〜。伝説さんに認められたってことだぞ〜」 「……ボクも、いつかあんな風になれるかな」 「なれるさ〜」 グリーンは——肩をポンと叩いた。 「お前は——まだ始まったばかりだからな〜」 グラニは——頷いた。 (強くなりたい) その思いが——また、少し大きくなった。 ◆ これから始まる 夜風が——吹き抜けていった。 港には——まだ明かりが灯っている。 挑戦者たちの笑い声。 露店の呼び込み。 酒場の歌声。 島は——これまでにないほど賑わっていた。 三日後——挑戦が始まる。 それぞれの思いを胸に。 それぞれの目標を持って。 挑戦者たちは——この島に集まった。 グラニは——その中にいた。 まだ——挑戦者ではない。 でも——いつか、必ず。 (ボクも——あの舞台に立つ) グラニは——拳を握りしめた。 新しい物語が——始まろうとしていた。 ——第26話 終わり——