第11章 失墜種、遊戯の刻 I ― ヴァルディスとイサリオ  戦場が、壊れる音がした。  鋼でも、骨でも、石でもない。  もっと広く、もっと大きな――「場」というものそのものが、ずるりと滑り落ちるような音。  ナギは、一瞬足を止めた。  耳に届いたのは、悲鳴でも咆哮でもない。  地面と空と、そこに立っていたはずの人々の位置関係が、まとめて崩れた音だった。 「……今、何か……」  言い終える前に、視界の左側が「抜けた」。  さっきまで、そこには三十人ほどの隊がいた。  護心流の結界を二重三重に重ね、炎痕型と異存者の突進を押し返していた。  その姿が、一斉に消えていた。  血も、肉も、折れた槍も、足跡もない。  ただ、空っぽの地面がそこにあり、少し離れた場所で炎痕型と異存者が、まるで「ぶつかるはずだった何か」を探すように振り向いている。 「……あれ?」  ナギは、自分の喉から漏れた声に、自分で驚いた。  隣にいたはずの兵の名前が、出てこない。  そこに隊がいたことは分かる。  だが、誰がいたのかが思い出せない。 「見たな」  背後から声が降ってきた。  ナギが振り返る前に、冷たい風が戦場を撫でた。 ◇  高地。  灰灯廃都を見下ろす壊れた城壁の上に、一つの影が腰を下ろしていた。  長い脚をだらしなく投げ出し、足先で崩れた石をいじりながら、戦場を眺めている。  人の形をしている。  白銀の髪が逆立ち、筋肉質な上半身が露出している。  黒いロングコートが風に揺れ、目を覆う目隠しが青く光っている。  目は見えないのに、視線だけは感じる。  戦場のひとつひとつの結界を、丁寧に、飽きもせず眺めていた。  壊滅の力を持つ存在。 「結界。輪。線。位置」  彼は退屈そうに言葉を並べる。 「うん、うん。いいじゃないか、人間。  "場"で抗おうとするのは、いつ見ても良い趣向だ」  そして、まるで独り言のように呟いた。 「ああ、僕はヴァルディス。  君たちの場を壊す者だ。覚えておいて損はないよ」  その隣に、影が滑り込んできた。  音より先に、空気が軋んだ。  光が、石壁の端から端まで走る。 「おっと」  ヴァルディスは、わずかに身体を傾けた。  光が彼の膝先をかすめ、砕けた石を弾き飛ばす。 「お前、ほんと容赦ないよなあ、イサリオ」 「容赦?」  笑い声が、光の余韻の中から現れた。  崩れた塔の上に、もう一つの影が立っている。  黒い肌に、青い稲妻のような紋様が全身を走っている。  獣のような筋肉質な体躯。牙を剥き出した、完全に人外の顔。  記憶を奪いし者。 「してほしいの? 容赦」 「いや? 別に」 「だよねえ! ああ、そうだ」  その影は、まるで思い出したかのように付け足した。 「僕、イサリオ。覚えなくていいよ、すぐ死ぬから」  イサリオは楽しげに笑い、指先を戦場に向けた。 「ほら、あそこ。  あの結界と結界の間、今なら綺麗に抜けるよ?」  彼が指さした先には、炎痕型と異存者と戦継者が、三つ巴で殴り合っている地点があった。  異存者は、さっきの統率者のように失墜種を「操ろう」としている。  だが、炎痕型は命令を聞き流し、近くにいる温かい肉を優先して掴みかかる。  異存者が怒声を上げて炎痕型に異能を叩き込む。  炎痕型は燃えながらも、その異存者の首をもぎ取る。  そこへ、戦継者が斬り込む。  護心流の結界の上から飛び込み、異存者と炎痕型の中間に斬撃を滑り込ませる。  三つ巴。  誰も、誰とも正しく組まない。  その頭上に、イサリオが奪った記憶から引き出した「雷撃」が落ちた。 ◇ 「雷だ――!」  誰かが叫ぶより先に、落ちてきた。  雷は一本ではなかった。  細い糸のような線が十数本。  それぞれが、失墜種と異存者と戦継者の位置を、楽しげになぞりながら落ちてくる。  一本が炎痕型の肩を貫いた。  焼けた皮膚が更に焼け、腕が吹き飛ぶ。  飛んだ腕が、近くにいた異存者の顔にぶつかり、そいつの目を潰す。  一本が異存者の脚を撃ち抜いた。  膝から下が消し飛び、宙に浮いた胴体が、すぐ後ろの戦継者に抱きつくように倒れ込む。  戦継者の胸甲が、その動きを半分受け止め、半分砕かれる。  一本が戦継者の兜を貫いた。  兜ごと頭蓋骨を焼き抜き、目と口から光が漏れる。  そのまま、身体だけが後ろに倒れた。  失墜種も異存者も戦継者も、区別なく焼かれる。 「っ、伏せ――!」  ナギが叫ぶ前に、足元に護心流の結界が広がった。  ミナトだ。  苦しげな表情のまま、双剣を腰に差したまま、片膝をついて結界を刻んでいる。 「結界の内側に入れ!  雷を遮れ!」  護心流の結界が広がり、雷の線が結界に阻まれる。  直撃するはずだった雷が、結界で止まる。  それでも結界を貫いた余波が、腕を焼き、肩を焦がす。  それでも、焼ける肉の匂いは消えない。  雷に掠められた兵の腕が、肘から先だけ黒く焦げ、骨が露出する。 「ははっ」  イサリオの笑い声が、雷の音に混じる。 「避けたね。  いいね、そういうの。  "死なないように"工夫するの、見てて飽きない」  彼は塔の上で、足をぶらつかせながら雷を降らせ続けた。 「……あいつが、記憶を奪う者か」  レンが歯を軋ませる。 「ナギ、見たか。  あれが"人型"だ」 「はい……」  ナギは、雷の落ちた跡を見ていた。  地面に、小さな穴があいている。  穴の周囲には、黒く焼けた肉片と、溶けた鉄が固まっていた。  その穴の縁に、さっきまで一緒に戦っていた兵の足だけが引っかかっている。  膝から上は、どこにも見当たらない。 「まだ終わりじゃないぞ!」  レンが叫ぶ。 「イサリオだろうが誰だろうが、雷は線だ!  線なら、折るか、外させるか、潜ればいい!」  そう言って、彼は前に出た。  雷が、レンの頭上を掠める。  槍の穂先に電光が走り、刃が白く光る。  目の前の炎痕型が、その光に怯んだ。  レンはその隙に踏み込み、槍でその胸を貫く。  雷を纏った刃が炎痕型の内部を焼き、そのまま背中を突き破る。  後ろにいた異存者の胸甲も、一緒に焼き抜いた。 「おお、やるじゃない」  上から、イサリオの声が降ってきた。 「人間。  雷、少し借りるの上手」 「返してもらう気はさらさらないがな!」  レンは怒鳴り返し、槍を引き抜く。  腕に痺れが走る。  筋肉が悲鳴を上げるが、彼は握りを緩めなかった。 ◇  戦場の別の場所で、もう一人の上位が立ち上がった。  ヴァルディスは、城壁の上から軽く飛び降りた。  足元の瓦礫を、まるで水の上を歩くように踏み、戦場の一角へと向かう。  彼が歩くと、そこだけ音がなくなる。  失墜種の咆哮も、異存者の笑い声も、戦継者の叫びも、その周囲では妙に遠く聞こえる。  ヴァルディスは、護心流の結界を眺めながら歩いた。 「こうして見ると、綺麗だねえ」  彼は独り言のように呟く。 「結界を重ねて、線を守って、場を整える。  "冑なき軍"か……うん、うん。  いい名だ」  足元に、戦継者の小隊がいた。  彼らはヴァルディスの存在に気づいていない。  目の前の炎痕型と異存者に必死に対処している。  ヴァルディスは、その小隊が作る陣形を、まじまじと眺めた。  前列が槍と盾で壁を作り、後列が結界を重ねて足場を固める。  その背後に、矢を番えた弓兵。  そのさらに後ろに、負傷者を引きずる者たち。 「こういうのを壊すのが、僕の仕事なんだよね」  彼は、右手を軽く振った。 ◇  音は、なかった。  ただ、地面が「無」に帰した。  ヴァルディスの振るった力が、戦場を横切る。  消されたのは、土でも石でもない。  「そこにあるはずだった場」そのものだった。  線のこちら側には、小隊がいる。  結界があり、声があり、血がある。  線の向こう側から、それらが一斉に消えた。  結界が消え、声が消え、血の匂いが消える。  あったはずの地面の凹みも、踏み跡も、砕けた石も消えた。 「おい……」  線の手前にいた兵が、呟く。  さっきまで前にいたはずの仲間の名前が出てこない。  そこに小隊がいたことは、頭のどこかで分かっている。  だが、その記憶も、今まさに切り取られつつあった。 「……誰だっけ」  彼は呟き、自分の口から出た言葉に震えた。  ヴァルディスは、その様子を楽しげに眺めた。 「ね? 綺麗だろう」  彼は兵の肩に手を置いた。  兵は、その手に気づかない。 「戦場から一枚だけページを破るみたいなものだ。  そこに書かれていた名前も、人数も、動きも、全部なかったことにする」  彼はゆっくりと、兵の首筋に爪を立てる。 「君も、その一部になるかい?」  爪が皮膚を切り裂く感触の前に、その兵の存在そのものが薄くなった。  声を上げる暇もなく、その身体は輪郭を失い、空気に溶ける。  残ったのは、血の染み一つない土だけ。 「……やめろ」  その背後から声がした。  ヴァルディスが振り向くと、そこには一人の男が立っていた。  片刃のまっすぐな剣を手にした男。  護心流の結界を足元に刻みながら、戦場全体を睨みつける目。 「冑なき軍、頭領」  ヴァルディスは、唇の端を上げた。 「葦原 透真、だっけ?」 「人の名を知る気があるとは思わなかった」  透真は短く答えた。 「それとも、消すために必要なのか」 「そういうのを考えるのは、あっちの役目だから」  ヴァルディスは、ちらりと灰灯の中心――刻界ノ男の方を見やった。 「僕はただ、"場"を壊すだけでいい。  君たちの陣形は、なかなか良く出来ているからね。  壊し甲斐がある」 「なら、簡単には壊させない」  透真は足元の結界を踏みしめた。 「結界――展開」  彼の周囲に、薄く広い結界が広がる。  それは、いつもの護心流とは少し違っていた。  結界の内側にいる者たちの、足と刃と視線が、透真の足元に「揃う」。  彼が一歩踏み出せば、結界の内側にいる全員が、その一歩分だけ「前にいる」。  彼が剣を振るえば、その瞬間に、結界の内側の全ての刃が、その点を目指して動く。  攻撃地点と攻撃の刻を、ゼロ距離に圧縮する結界。  透真がヴァルディスに向かって一歩踏み込む。  同時に、周囲の兵が、炎痕型と異存者に向かって斬撃を放つ。  彼らの刃は、それぞれ別の敵を斬っている。  だが、その「斬ったという結果」は、透真の一歩と同じ刻に結びつけられる。  刃が交錯した瞬間、ヴァルディスの周囲で、炎痕型と異存者の首がまとめて飛んだ。 「おお」  ヴァルディスが、素直な感嘆の声を漏らす。 「それはいい。  攻撃の結果を、一つの刻に重ねてるのか。  戦場全体を"踏み込み"で束ねる結界――なるほどね」 「壊す前に、学ぶ趣味もあるのか」 「壊すためなら、何だって見るよ」  ヴァルディスは、透真に向かって手を振った。  その腕から、圧倒的な「力」が放たれる。 「今度は、君の結界を破ろう」  力が向かう先には、透真の結界の縁がある。  そこを砕けば、結界の中にいる者たちの連携は崩れる。  だが、その力が縁に触れる前に――結界の位置が、わずかにずれた。 「……ほう」  ヴァルディスが目を細める。  透真が一歩後ろに踏み込んでいた。  ほんの半歩。  だが、その半歩に合わせて、結界も半歩分、後ろへ滑っていた。  力は、結界の「直前」を抉り、何もない地面だけをなぞる。 「壊す前に、自分たちの"場"を動かすか。  悪くないね」 「お前の力が届く前に、俺たちの結界を動かす。  お前の壊す手より、俺たちの"退き"の方が速ければ、場は壊れない」  透真は静かに言った。 「冑なき軍は、冑がない分だけ、退路をよく見る」  ヴァルディスは、肩を竦めて笑った。 「じゃあ、速さを比べようか。  僕の"消す力"と、君の"守る足"の」 ◇  その頃、別の場所では、イサリオが遊んでいた。 「うーん」  イサリオは塔の上で首をかしげた。 「人間も失墜種も異存者も、全部まとめて焼いてるとさ。  誰がどれだけ死んだか分かんなくなるんだよね」 「お前が分からなくて、誰が分かるんだよ」  塔の下からレンの声が飛んだ。 「こっちは、仲間が一人死ぬたびに、ちゃんと数えてるんだぞ!」 「えらいえらい」  イサリオは、まるで褒めるような口調で言った。 「じゃあ、数える暇がなくなるくらい、まとめて行く?」 「ふざけるな!」  雷が落ちた。  今度は、一本ではない。  面だ。  空から「板」のように落ちてきた雷が、塔の下の一帯を覆う。 「伏せろ!!」  レンが叫ぶと同時に、自分が一番前に飛び出した。  槍を横にして、護心流の結界の縁に突き立てる。  その槍を支えに、自分の身体を盾のように構えた。  雷の板が、槍に当たる。  刃から柄へ、柄から腕へ、腕から胸へ、胸から腹へ。  身体の中を、熱と痛みが貫いた。 「ぐ――――――っ!」  歯を食いしばらなければ、悲鳴が漏れそうだった。  視界が白く飛ぶ。  皮膚の焼ける匂いが、自分の鼻を刺す。  背後で、ナギたちが地面に伏せる気配がする。  雷の板は、レンの身体と槍に大部分を取られ、後ろに届いたのは細い枝だけだった。  それでも、後列の兵の背中が焼け、髪が焦げる。 「隊長!!」  ナギが叫ぶ。  レンは、そこではじめて膝をついた。  槍を支えにしなければ、前のめりに倒れていた。  鎧の胸板が黒く焦げている。  隙間から見える皮膚は、ところどころ白くなり、ところどころ赤く膨れ上がっていた。 「……生きてる」  レンは、かすれた声で笑った。 「まだ、数えられる」 「何をですか!」 「死んだ仲間の数だよ。  ……それが、これ以上増えないようにするのが、俺の仕事だろ」  彼は、震える腕で槍を立て直した。 「イサリオ!」  レンは塔の上に向かって怒鳴る。 「雷遊びなら、俺が相手する!  上から落としてるだけじゃ、きっとすぐ飽きるだろ!」 「どうかなあ」  イサリオは、塔の縁から身を乗り出した。 「でも、そうやって燃えながら立ってるの、好きだよ、人間。  燃え尽きるまでの間だけ、すごく綺麗だ」 「燃え尽きてからも、刃は残るさ」  レンが笑った。 「俺が倒れたら、その先は、あいつらが繋ぐ」  彼の背後で、ナギとリツが構えている。  ナギの足元には、細い結界の道。  走りを線に変えるための道。  リツの足元には、重たいシェルター型の結界。  退かない一歩を守るための鎖。 「だから、お前の雷だけじゃ足りないぞ、記憶を奪う者」 「そっか」  イサリオは目を細めた。 「じゃあ、もっといいおもちゃを混ぜないとね」  彼は指を鳴らした。  次の瞬間、雷が、失墜種と異存者にも同じように降り注いだ。  炎痕型の頭が弾け、氷痕型の胸が爆ぜる。  異存者の背骨が折れ、首だけになった頭が戦場を転がる。 「お前らも、ちゃんと燃えてよ」  イサリオは、失墜種たちに向かって笑いかけた。 「僕、区別つけるの苦手なんだ。  戦継者も、異存者も、失墜種も、全部おなじ"いい音"で鳴くからさ」  雷が、戦場を乱数のようになぞり続ける。  その中で、レンは再び前に出た。  焼けた腕で槍を握り、雷の線の隙間を縫う。  斬らねばならない敵は、雷を降らせるイサリオだけではない。  目の前で、ナギたちに掴みかかる炎痕型も、背後から迫る異存者も、等しく「今倒さねばならない敵」だ。 「全員、死ぬな!」  レンの叫びが、雷鳴に負けじと響いた。 ◇  戦場は、三つ巴どころではなかった。  刻界ノ男が、刻を歪めて笑っている。  ヴァルディスが、場を「無」に帰しながら歩いている。  イサリオが、奪った記憶の雷で遊びながら焼いている。  その足元で、失墜種が失墜種を噛み砕き、異存者が失墜種を撃ち抜き、戦継者が異存者の背を斬る。  ある地点では、炎痕型が異存者の首を噛みちぎり、その炎が失墜種自身の体を焼いていた。  そこへ戦継者が飛び込み、炎痕型を斬り倒し、その背中をすぐ後ろの氷痕型に刺される。  ある地点では、異存者が失墜種を「従わせよう」と異能を叩き込み、失敗して逆に食われていた。  その失墜種をイサリオの雷が貫き、その死骸をヴァルディスの力が「無」に帰す。  協力も、同盟も、優先順位もない。  ただ、「そこにあるものを壊す」という衝動だけが交差していた。 ◇  その混沌の中で、ふと、音が消えた。  雷鳴も、咆哮も、叫びも、少しだけ遠くなった。  ナギは、何か冷たいものが首筋を撫でた気がして振り向いた。  そこに、一人の影が立っていた。  長身の、端正な姿。  白銀の髪が風になびき、黒と金の装飾付きローブが体を覆っている。  頭上には、金の輪――ハローが静かに浮かんでいた。  だが、その周囲だけ、空気が違っていた。  地面に、線が見えた。  土の上にも、血の上にも、割れた石の上にも、無数の細い線が走っている。  それは誰かの足跡でも、刃の軌跡でもない。  失墜種の群れの動きを示す「指揮線」。  アークレオンは、その線を操っていた。  統率の力。  失墜種を「命じる」能力。  彼は、無言で戦場を見渡し、そしてゆっくりと口を開いた。 「私はアークレオン。この戦場を統べる者だ」  その声は静かで、しかし戦場の喧騒を貫いて届いた。  片手を伸ばし、地面に伸びる線のひとつを摘み上げる。  摘んだ線は、まるで糸のように指先に絡みつく。  その瞬間、遠くで炎痕型の群れが一斉に方向を変えた。  統率された動きが、戦継者の隊列を横から襲う。  アークレオンは、別の線を摘んだ。  氷痕型の一団が、退路を塞ぐように移動する。  その勢いのまま、後ろにいた戦継者の逃げ道も断つ。  彼は、ただ線を摘み、その線を並べているだけだ。  失墜種の群れに「命令」を敷き詰めている。  ヴァルディスが場を消し、イサリオが雷で遊ぶ戦場に、第三の手が加わった。  アークレオンは、その三つ巴すら「統率の一部」として、冷静に見下ろしている。  彼は、ようやく口を開いた。 「――騒がしい」  それだけ言って、ゆっくりと一歩を踏み出した。  その一歩が、戦場の「次の刻」を決める合図であることを、誰もまだ知らない。