――強き者は、戦いを求めていました。 それは欲ではない。生存の証。 われらの祖は"冑(かぶと)なき軍"を編み、 異存の影を墜とす。  灰は、ただの残り火ではない。  燃え尽きた後にも、熱と傷跡と、失われた名の重さを抱え続ける。  この章は、その灰の上を歩いた者たちの記録である。 ◇  出立の日の朝、砦の空はいつもより低く見えた。  雲が垂れ込めているわけではない。  だが、城壁の上から見た空の端が、やけに近く感じられた。  南門の前に、二十余名の戦継者が整列していた。  鎖帷子の上から羽織を締め、刀と槍と弓をそれぞれの位置に下げている。  全員、護心流を扱う者たちだ。  その先頭に、一人の男が立っていた。  髭に白が混じり始めた顔。  肩から腕にかけて刻まれた古傷。  その目は穏やかでいながら、一度見たものを決して忘れまいとする固さを持っていた。 「先行調査隊隊長、如月(きさらぎ) 宗馬(そうま)」  彼は自ら名乗った。  かつていくつもの外任をこなし、生き残ってきた中堅の指揮官だ。 「今回の任は、討伐ではない。  見ること。  覚えること。  そして、生きて帰ること」  宗馬の声は、土を踏みしめた足と同じくらい重かった。 「敵を斬る機会は、これから嫌というほど来る。  今はまだ、その前だ」  隊列の中で、何人かの若者がごくりと喉を鳴らした。  彼らの顔には、緊張と、それ以上に抑えきれない昂ぶりが浮かんでいる。 「第五部隊から参加する者、前へ」  宗馬の声に、列の中ほどから三人の影が一歩前に出た。 「第五小隊所属、春斗(はると)!」 「同じく、真砂(まさご)!」 「同じく、楓(かえで)!」  彼らはナギより少し年上の先輩格だ。  何度か実戦を経験し、ナギの稽古にも付き合ってきた。  今は、その目を真っ直ぐ前に向けている。  門の少し離れた場所で、その様子を見ている影があった。  芹沢ナギ。  足元には、まだ焚き火の炭の匂いが残っている気がした。 「行ってきます!」  春斗がこちらに気づき、笑って手を振った。  ナギも思わず手を上げる。 「……はい。  ちゃんと、戻ってきてください」 「当たり前だ。  お前に土産話を自慢しなきゃならねえからな」  真砂が笑い、楓が小さく頷いた。 「火を絶やすなよ、ナギ」 「……はい」  何でもない一言が、ナギの胸を刺した。  火を囲む者たち。  そのうち何人が、この門の外から戻ってこられるのか。 「如月隊」  門の上から、透真の声が降りてきた。  宗馬が振り返り、頭を垂れる。 「頭領」 「任の重さは、ここにいる者なら皆承知しているだろう。  だが繰り返す」  透真は、城壁の上から彼ら全員を見渡した。 「灰灯廃都にいる影の名は、まだ確かではない。  だが、いずれにせよ、あの地はこの先の戦の要になる」  城壁の上の風が、彼の衣を揺らす。 「お前たちの目で見たものが、何十人、何百人の命を左右する」  若者たちの背筋が伸びる。  宗馬の目だけは、変わらず静かだった。 「だが、忘れるな」  透真の声が少しだけ柔らかくなる。 「お前たちは英雄になるために行くのではない。  記録するために行くのでもない。  生きて帰るために行くのだ」  ナギは息を呑んだ。  その言葉は、ここに残る自分にも向けられているように思えた。 「――冑なき軍の刃よ。  灰の上を歩き、灰を踏みしめて戻ってこい」  宗馬は深く頷き、振り返った。 「聞いたな。  出るぞ」  角笛が短く鳴り、南門の扉が軋みながら開いていく。  土の匂いと、外の風が流れ込んでくる。  先行調査隊は、灰壌へ向けて歩み出した。 ◇  砦から南へ下る街道は、一度は繁栄を知った道だ。  石畳がところどころ顔を出し、側道には古びた茶屋や宿場の跡が並んでいる。  だが、今はその多くが半ば崩れ、屋根は落ち、壁は斜めに傾いていた。  人の声よりも、風が板を鳴らす音のほうが大きい。 「ここ、前はもっと人がいましたよね」  楓が、崩れかけた木の看板を見上げながら呟く。  『酒』と書かれた文字が、雨に削られて半分消えていた。 「ああ。  俺が初めてここ通った頃は、夜でも灯がついてた」  宗馬が、何気ない口調で答えた。 「今は、夜に灯がついたら、それはそれで厄介だがな」  春斗と真砂が苦笑する。  笑ってはいるが、その目は周囲をよく見ている。 「前方、村の跡が見えます」  先頭を歩いていた斥候役が声を上げた。  小さな丘を越えた先に、低い石垣と朽ちた家々が並んでいる。  廃村。  かつて人が暮らし、畑を耕し、祭りをした場所。  今は風だけが通り抜ける。 「警戒を上げろ。  結界の準備」  宗馬の声に、隊員たちが自然と間隔を調整する。  それぞれが意識を集中させ、いつでも護心流の結界を張れるように備える。  村の入口には、古びた祠があった。  祠の前には、供え物だったはずの皿が割れたまま転がっている。  そして、その周囲には――黒い跡。 「……焦げてる」  楓がしゃがみ込み、指先で土を撫でた。  黒く焦げた円形の跡がいくつも重なっている。  まるで何かがそこに立っていたかのように。 「炎痕型だな」  宗馬が低く言った。 「ただ焼けたんじゃない。  火そのものが、そこだけに留まっていた跡だ」  春斗が、廃屋の壁に目を向ける。  木壁の一部が、丸く溶けたように歪んでいる。 「こんな村でまで……」 「異存の影は、人の暮らしの跡を好む」  宗馬は、祠に一礼してから歩き出した。 「人の歩いた道、人の笑った場。  そういう場所のほうが、歪めばよく目立つからな」  廃村を抜けると、道はやがて狭くなり、山裾を舐めるように続いていく。  周囲の木々の幹には、ところどころ白い霜が張り付いていた。 「ここは……凍ってる?」  真砂が幹に手を近づけた。  冷気が肌を刺す。  春でもないのに、薄い氷が木の皮を覆っている。 「氷痕型の通り道だろう」  宗馬は木から目を離さずに言う。 「足をとられやすい。  気をつけろ」  足元の土も、ところどころ白く硬くなっている。  うっかり踏み込めば、足を滑らせるだろう。  さらに南へ進むと、地面の様子がまた変わった。  灰色の土の上に、黒く光る小さなものが散らばっている。 「……これ、石じゃないですよね」  楓が小さな塊を拾い上げた。  それは、黒い結晶だった。  陽の光に当たると、不気味な紫色の光を内に宿している。 「触るな。落とせ」  宗馬の声が鋭くなる。  楓は慌てて指を開いた。  結晶は土の上に転がり、かすかにカチリと音を立てた。 「別種の痕だ。  ああいうものは、軽々しく指で触れるもんじゃない」 「す、すみません」 「謝るなら、次は触る前に考えろ」  宗馬は短く叱ってから、視線を周囲に巡らせた。 「焦げ跡、凍結、結晶……  この辺りは、いろんな奴らが通り過ぎている」  春斗が息を吐いた。 「まるで寄せ集めですね」 「寄せ集めじゃない。  引き寄せられているんだろう」  宗馬は、さらに南を見た。 「灰灯廃都に」 ◇  途中、何度か小規模な交戦があった。  道端で蠢いていた失墜種・通常種の群れ。  炎痕型が何体か、焔の鱗を揺らしながら飛びかかってくる。 「前、三!」  斥候の声とともに、前衛が結界を展開した。  見えない壁が、敵の突進を受け止める。  そこに踏み込もうとした失墜種が、結界に阻まれて足を止めた。 「左から!」  春斗が叫び、一歩で間合いを詰める。  刀が焔の鱗を断ち、続く一撃で胴体を斬る。 「踏み込む前に、腰を落とせ、楓!」 「わ、分かってます!」  楓の刃はまだ迷いが多い。  ぎりぎりで首を捉え、返す刀でようやく仕留める。  真砂が背中を支え、結界の縁を意識しながら立ち位置を調整する。  宗馬は、あえて前に出過ぎない。  必要なときだけ、敵の群れの流れを断ち切る。 「今のは、まだ遊びだ」  全ての影が土に伏したあと、誰かが呟いた。  宗馬はそれに頷きもしなかった。 「遊びでも、当たれば死ぬ」  それだけ言い残し、彼は歩みを再開する。 ◇  日が傾き始めるころ、一行は一つの丘の上に立っていた。  その先に、灰色の海が広がっている。 「……あれが」  春斗の言葉が、途中で途切れた。  誰もが、言葉を失ったからだ。  灰灯廃都。  かつての城下町の形は、もう残っていない。  瓦礫と折れた柱、崩れた石垣が、波打つように広がっている。  灰色の中に、ところどころ黒い柱のようなものが突き出していた。  それは焼け落ちた楼の残骸か、あるいは別の何かか。  城があったはずの中心部には、巨大な影が横たわっている。  城そのものなのか、異存の造った何かの構造物なのか、遠目には判然としない。  ただ、その周囲の空気がわずかに歪んで見えた。  手前の廃墟の間には、無数の影がうごめいている。  人間ではない。  失墜種たちだ。  人に近い形のもの、四つ足で這うもの、揺らめく影のようなものもいる。  彼らは本能のままに徘徊し、ときおり互いにぶつかっては離れる。  その動きには統一も意図もない。ただ、行き場を失った獣の群れのようだった。 「……地獄だ」  真砂が、知らず漏らした。  戦場というより、獣の巣窟。秩序のかけらもない。  四つ足で地を這うもの。  空をゆっくりと旋回する黒い鳥。  背から棘を突き出した巨体。  通常種だけではない。  異型、亜種、別種が混ざっている。  廃都は、あらゆる種類の失墜種で埋め尽くされていた。 「統率も何もない。ただの群れだ」  宗馬が低く言った。 「互いに食らい合い、殺し合い、それでも湧いてくる。  あの中に踏み込めば、どれだけ斬っても終わりが見えん」 「じゃあ、ここは……」 「失墜種の巣だ。それも、最大級の」  宗馬は目を細めた。 「あれだけの数が一所に集まっている。  何かに引き寄せられているのか、それとも……」  丘の上から見ても、廃墟の間で失墜種同士が食い合う場面が見えた。  勝者が敗者を喰らい、その勝者もまた別の影に襲われる。終わりのない連鎖だった。 「ここから、近づきすぎずに見張る」  宗馬は決断した。 「丘の裏手に潜伏地点を設ける。  廃墟と土塀を利用して、視界と逃げ道を確保しろ」 「はい!」  若者たちが散り、瓦礫の間に身を沈めていく。  灰と土が、具足にまとわりつく。  ここから先は、一歩ごとに命が軽くなる場所だ。 ◇  潜伏地点は、丘の斜面に穿たれた古い物見台の跡を利用して作られた。  崩れかけた石の壁と、半分土に埋もれた木の梁。  そこに布を張り、外からは廃墟と見分けがつかないようにする。 「順番を決めるぞ」  宗馬は、集まった隊員たちを前に地面に簡単な図を描いた。 「日中は、二人一組で交代しながら丘の上から廃都の様子を見る。  夜は、廃墟の陰から灯りと動きを見る。  三日分の行動を記録したら、一人を砦に戻す」 「一人、ですか」  春斗が問い返す。 「一人で十分だ。  全員戻ろうとして全員やられるより、一人が確実に戻るほうがいい」  宗馬は淡々と言う。 「誰を戻すかは、そのとき決める。  最低限、足が生きている者だ」  若者たちの顔が引き締まる。  誰も、「自分が戻る」とは口にしない。  それが臆病なのか、勇敢なのか、今は測れない。 「水と干し肉は三日分。  無駄に動くな。  戦いは、余計な一歩から始まる」  そう言ってから、宗馬は空を見上げた。  灰色の空の端が、わずかに赤みを帯び始めている。 「今日のところは、日が暮れるまでの半刻だけ観察だ。  初日は、目を慣らすだけでいい」 ◇  丘の上。  春斗と真砂が並んで腹ばいになり、廃都を見下ろしていた。  土と草の匂いが鼻をつく。  頬に当たる風が、少し冷たくなってきた。 「……思ったより、動きが少ないですね」  真砂が小声で言う。  陣形を組んだ異存者たちは、ほとんど動いていない。  周囲の失墜種は、気ままに徘徊しているが、大きな流れは見えない。 「今日は『そういう日』なんだろ」  春斗は目を細めた。 「戦の前日に、やたら静かになる夜があるって、聞いたことないか?」 「ありますけど……」 「そういうもんだ」  春斗は、廃墟の一角に目を止めた。 「あれを見ろ。  東側の外れ」  真砂も視線をそちらへ向ける。  崩れた城壁の外側に、黒い影がいくつも重なっていた。  大きな体。  背中に棘。  その周りを、小さな影がちょろちょろと走り回っている。 「……あれ、巨獣型か」 「さあな。  ただ、ああいうのが群れで動き出したら、この丘ごと飲み込まれる」  春斗の言葉に、真砂は無意識に喉を鳴らした。 「投石もしてきそうですね」 「石ならまだいい。  あいつらが踏み出す一歩のほうが、よっぽど怖い」  二人の会話は、冗談のようでいて、冗談だけではなかった。 ◇  日が完全に沈むと、廃都の様子はまた変わった。  昼間はほとんど動かなかった異存者たちが、わずかに位置を変える。  完全な足並みではないが、何かの合図に従っているようにも見えた。  失墜種たちは、夜目に頼らずとも分かるほど活性化する。  灰の上を走り回り、互いに噛みつき合い、ときおり異存者の列にぶつかっては、邪魔そうに払いのけられる。  遠くで、低い音がした。  雷鳴のようで、悲鳴のようで、そのどちらでもない音。 「……聞こえましたか」  別の時間帯の見張りに立っていた隊員が、小屋の影で耳を澄ませた。 「南東のほうからだな」  宗馬が廃墟越しに空を見た。  黒い雲が渦を巻いているようにも見えるが、ここからでははっきりしない。 「雷ですか」 「雷ならいいがな」  宗馬の声は軽いが、その目は笑っていなかった。  その夜、彼らは交代で眠り、交代で廃都を見続けた。  灰の大地は、眠らない。 ◇  三日目の朝。  灰灯廃都の上空の空気が、わずかにざわめいた。  宗馬は丘の上に身を伏せ、目を凝らした。  廃都の中心部――かつて城があったはずの場所の空が、波打つように揺れている。 「……見えるか」 「はい」  隣にいた春斗が、息を呑んだ。  崩れた石垣の上に建つ、ぼろぼろになった楼のような影。  その周囲の空が、まるで水面のように歪んでいる。  崩れたはずの壁が一瞬だけ元の形を取り戻し、また崩れる。  倒れた柱が立ち上がり、再び倒れる。 「城が……」 「戻っては、消えてます」  真砂も、その異様な光景を見ていた。  廃墟の一角だけが、別の刻を何度もなぞっている。  そこに立っている者がいるとすれば、今この瞬間にいるのか、いないのかさえ定かではない。 「刻が……歪んでますね」  楓の声は震えていた。  宗馬は頷いた。 「ようやく、お出ましか」 「見えますか、隊長」 「はっきりとは見えない。  だが、あの中心にいる」  宗馬の目には、影が一つだけ浮かび上がっていた。  人のようで、人ではない。  輪郭がぼやけ、外套の裾だけが揺れている。  その周囲で、屋根が崩れ、壁が立ち、瓦が舞い、階段が伸びたり縮んだりしている。  あたかも、城そのものが一人の人間の記憶を反芻しているかのように。  刻界ノ男。  その名は、まだここでは口にされない。  だが、彼らの目が見たものは、間違いなく「刻」を弄ぶ影だった。 「……十分だ」  宗馬は息を吐いた。 「灰灯廃都の様子、異存の陣形、失墜種の密度。  始祖級と思しき影の位置。  これだけあれば、砦は動ける」  彼は丘の下に戻り、隊員たちを集めた。 「今から、一人を砦に戻す」  その言葉に、ざわめきが起きる。 「隊長が…」 「俺は残る」  宗馬は即座に否定した。 「指揮官が最初に逃げ帰る隊は、ろくな結末にならん」  誰も笑わなかった。  笑える話ではない。 「足が確かで、目が利き、記録を頭に刻める者」  宗馬は隊列を見回し、その中から一人を指さした。 「真砂」 「……はい!」  真砂が一歩前に出る。  表情には驚きと緊張が混ざっていた。 「お前は、これまでの三日間で見たものを一番よく覚えている。  他の奴らが見ていない細かい動きも見ていた」  宗馬は、淡々と理由を告げた。 「足も速い。  適任だ」 「でも、俺なんかで――」 「お前なんか、ではない。  お前だから、だ」  宗馬の声には、迷いがなかった。  真砂は唇を噛み、深く頭を下げた。 「……必ず、届けます」 「行け」  宗馬は、背を向けた真砂の背中を、目で送った。  丘の裏手の安全な道を使って、砦への帰路に就く。 「戻り道でも、失墜種や異存と出くわすかもしれません」  楓が不安そうに言う。  宗馬は頷いた。 「だから、俺たちがここで奴らの目を引きつけておく。  真砂一人に、全部背負わせるつもりはない」  春斗が腰の刀に手を添えた。 「つまり、俺たちはここで派手に転んでやればいいってことですね」 「転ばなくていい。  踏ん張れ」  宗馬は苦笑した。 「転ぶのは、敵と、必要なら俺たちのほうだ」  笑いとも溜め息ともつかない空気が、隊員たちの間を流れた。 ◇  真砂の姿が小さくなり、やがて丘の陰に消えていった。  残された先行調査隊は、再び廃都へ視線を向ける。  そのとき、廃都の空が、先ほどまでとは違う歪み方をした。 「……隊長」 「見えてる」  宗馬の声が低くなる。  城のあった場所の上空だけでなく、廃都全体の空気が波打ち始めた。  崩れた家屋の壁が、まるごと別の場所に移動する。  倒れた塔の残骸が、一瞬だけ立ち上がっては、別の方向に倒れる。 「建物が……入れ替わってる?」  楓の声が震える。  春斗は言葉を失っていた。  廃墟そのものが、誰かの手の中で何度も並び替えられているようだった。  そこに住んでいた人々の生活が、ばらばらに引き出されては、別の順番で積み重ねられていく。  その中心で、揺らめく影が一つ。  まるで、全ての刻を指先で弄んでいるかのように。 「……始まるか」  宗馬は呟いた。 「これは、ただの歪みじゃない。  誰かが意図して刻を弄っている」  空気が重くなる。  土の匂いに、鉄と灰の匂いが混ざる。 「全員、結界の準備。  廃都の中まで踏み込むのはまだ先だが、ここまで揺れが来る可能性がある」  丘の上と、潜伏地点の中で、それぞれが意識を集中する。  必要なとき、いつでも護心流の結界を張れるように。  灰灯廃都の空は、もう元には戻らない。  刻界の影が、はっきりと形を取り始めていた。