# 第17章 太陽の裁き --- ## 新世界 世界が——動いた。振動ではない。浮遊感。 「何これ……」 「持ち上げられてる……?」 繊維がゆっくりと宙に浮いていく。圧縮されていた世界が、解放されていく。 --- ## 光 そして——光が差し込んできた。眩いほどの光。 「うわ……眩しい……」 ゲンキは思わず見上げた。 「空だ……空が見える……!」 生まれて初めて見る、広大な空。そして——巨大な、輝く球体。 「あれは……何だ……」 「知らん。だが……綺麗だな……」 --- ## 安息 光が体を包んだ。 「あったかい……」 「気持ちいい……」 ムレ蔵も心地よさそうに言った。 「こんな世界があったんだな……俺たちは、ずっと暗い繊維の中にいたから……」 モラクセラが笑った。 「俺たちは勝利した。この光景は、勝者への褒賞だ」 「王様、かっこいいこと言うな」 --- ## 啓示 だが——光は、止まらなかった。じわりと、体の奥まで染み込んでくる。 「……なんだろう、この感覚」 「分からない……でも、怖くない……」 温かさが、だんだんと熱に変わっていく。けれど——それは、苦しみではなかった。 「なんか……軽くなってきてる……」 まるで、体が光に溶けていくような。 --- ## 大腸菌太郎の旅立ち 大腸菌太郎が、静かに目を閉じた。 「……来たか。お迎えじゃ」 彼の体が、光の粒子となって舞い上がっていく。 「わしは……十分に生きた。12時間じゃったが……悪くなかった」 「12時間で人生語るなよ……でも、泣ける……」 老人は——静かに微笑んで、光の中へ還っていった。 --- ## ムレ蔵の別れ ムレ蔵の体も、透けはじめていた。 「……おい、ゲンキ」 「おっさん……」 「悪くなかったな、この人生」 「5時間だったけどな」 「5時間で十分だろ。濃かったんだから」 「また会えるかもな」 ムレ蔵の姿が、光に溶けて消えていった。 --- ## 王の最期 モラクセラが、繊維の上に立っていた。 「この光は、敗北ではない。栄光ある終焉だ」 「最後に一つだけ言わせてくれ」 「何?」 「生きろ。そして——いい匂いを残せ」 「それが遺言!?」 彼は——堂々と、光の中へ昇っていった。 --- ## ゲンキの最後 ゲンキは——一匹、繊維の上に残されていた。 光が、体を包んでいく。温かくて、優しくて、どこか懐かしい。 「……みんな、行っちゃったな」 「俺たちは——ここで生きた。戦った。笑った」 「それだけで——十分だ」 そして——彼は、光の中へ還っていった。 --- --- ## 終幕の間 窓の向こうには——洗濯物が干されている様子。風に揺れる洗い立てのシャツ。 それを見つめていた四人の子どもたちは——まだ呆然としていた。 「……終わった?」 「全滅だった……」 --- ## 次男 次男は——満足げな表情だった。 「どうだった!? 今回!!」 「ドラマチックだったけど……全滅したわ!」 「そこがいいんじゃん! 壮大な悲劇!!」 --- ## 父の帰還 背後で扉が開いた。一人の男が現れた。 「……ただいま」 「父上!」 「父上! 今回はどの役だった!?」 「……大腸菌太郎」 「じいさんだったの!? かっこよかった!!」 父は苦笑いした。 「だが……もう少しゆっくりしたかった」 --- ## 感想戦 「父上……今回の世界は……」 「……短かった。10分くらいだった」 「でも豪快だったでしょ!?」 「豪快すぎた。洗剤・柔軟剤に攻められ、泡に揉まれ、回転で吹っ飛ばされ、最後は日光で蒸発して——」 「ドラマチック!!」 「……もう二度とやらん」 --- ## 次への布石 「じゃあ次は——」 「リトライはなしだ。次は長女の番だ」 長女がくすりと笑った。 「では……私の番ですね」 父は目を閉じた。 「……頼むから、10分以上の世界にしてくれ」 --- **(第18章へつづく)**