# 第19章 鋼毛の獣 --- ## 混乱 盾使いが倒れた。誰もが、一瞬動けなかった。 あの盾が——王国最硬と謳われた鉄壁が——紙のように砕けた。 獣は盾使いの体を踏み越え、ゆっくりとこちらを向いた。 「散れ!!」 隊長の声で全員が動いた。 --- ## 反撃 斧戦士が右から回り込む。拳闘士が正面。槍使いの女が左。 「今だ!」 斧戦士が渾身の一撃を振り下ろした。斧の刃が獣の脇腹に届く——はずだった。 銀の毛が逆立った。刃が毛に触れた瞬間、火花が散った。斧が弾かれ、刃先が欠けた。 「硬ッ……! 斧が通らねえ!!」 獣は斧戦士を一瞥すらせず、前足を横に払っただけ。斧戦士は吹き飛び、地面を転がった。 --- ## 拳闘士の挑戦 拳闘士が跳んだ。獣の背中に飛び乗り、毛を掴もうとする。 だが掴んだ瞬間——掌が裂けた。 「ッ——!! 触れるだけで切れるのかよ……!」 拳闘士は獣の背から転げ落ちた。両掌から血が流れている。 --- ## 槍使いの一突き 槍使いの女が、唯一冷静だった。間合いを取り、獣の動きを見ている。 「……前足を振る前に、右肩が沈む」 獣が斧戦士に向かって動いた瞬間—— 「そこ!」 槍が伸びた。穂先が獣の顔の横を掠める。金属音。毛が穂先を弾いた。だが——獣が初めて、よろめいた。 --- ## 絶望 隊長は唇を噛んだ。顔周り以外、攻撃が通らない。触れるだけで肉が裂ける毛。 拳闘士が足を引きずりながら言った。 「正直に言うぜ、隊長。無理だ」 「……」 「盾がやられた。斧が通らない。俺の拳も使えない。槍だけが掠っただけだ」 斧戦士が起き上がりながら言った。 「撤退しねえか。ここで全滅するよりマシだろ」 獣は——じっと、彼らを見ていた。 --- ## 決断 隊長は剣を握り直した。心の中で、盾使いに詫びた。 「……撤退だ」 「隊長?」 「全員、森の方へ走れ」 拳闘士が言った。 「追ってくるだろ」 「それでも、ここで死ぬよりマシだ」 槍使いの女が言った。 「私が殿を務めます」 「……頼む」 隊長は叫んだ。 「全員——退けぇッ!!」 四人は——背を向けて、走り出した。 獣の咆哮が、背中を叩いた。足音が——追ってきている。 --- ## 追撃 木々の間を駆け抜ける。背後で木が倒れる音。獣が木々をなぎ倒しながら追ってきている。 「森でも減速しねえのか!!」 槍使いの女が振り返り、獣に向かって槍を突き出した。穂先が獣の鼻先を掠める。獣が一瞬、足を止めた。 「今だ! 走れ!!」 四人は闇の中を駆け続けた。獣の咆哮が、夜空に響いていた。 --- **(第20章へつづく)**