# 第20章 蹂躙 --- ## 逃走 四人は走り続けた。森を抜け、丘を越え、夜の荒野を駆ける。 「まだ追ってきてるのか……!」 「分からん。だが足音は遠くなった」 隊長が振り返った。闇の中に、獣の姿は見えない。 「……止まれ」 四人は足を止めた。肩で息をしながら、闇を見つめる。 「撒いた……のか?」 「分からん。今のうちに距離を稼ぐ」 --- ## キャンプ地 夜明け前、彼らは自陣のキャンプ地に辿り着いた。焚き火の残り火。並べられた天幕。物資の山。 斧戦士がどさりと地面に座り込んだ。 「生きてる……俺たち、生きてる……」 拳闘士が壁にもたれかかった。足の包帯が赤く滲んでいる。 「盾のやつ……」 「……ああ」 「一言も言えなかったな」 「ああ」 隊長が口を開いた。 「全員、傷の手当てをしろ。武器の修繕もだ。夜明けまでに——」 その時—— --- ## 地鳴り 足元が、揺れた。地面が震えている。何かが——近づいてくる。 「まさか……」 丘の向こうから——銀色の影が現れた。 巨大な狼。月光を浴びて、鋼鉄の毛が煌めいている。 「追ってきた……!!」 「嘘だろ……! 撒いたはずだ!!」 獣は丘の上に立ち、キャンプ地を見下ろしていた。 --- ## 蹂躙 獣が駆け下りてきた。天幕が吹き飛んだ。物資が散乱する。 「逃げろ!!」 隊長が叫んだ。だが逃げる先がない。 獣は天幕を踏み潰し、食料の樽を蹴り飛ばし、武器庫を前足で薙ぎ払った。 「武器が……! 予備の武器が!!」 仲間の天幕を踏み潰す。荷馬車をひっくり返す。薬草の箱を噛み砕く。 これは戦闘ではなかった。獣はただ——壊しているだけだ。 --- ## 焦土 数分で、キャンプ地は跡形もなくなった。 獣はゆっくりと歩き出した。北へ。 四人は、瓦礫の中に立ち尽くしていた。天幕も、食料も、薬も、予備の武器も——何もない。 「全部……なくなった」 拳闘士が地面に座り込んだ。 「終わりだ……もう何もねえ」 「終わりじゃない」 隊長が言った。 「あの獣は北に向かった」 槍使いの女が顔を上げた。 「北……? 北には——」 隊長の顔が青ざめた。 「——王都だ」 --- ## 追撃の決断 全員の顔から血の気が引いた。 「王都……?」 「壁は持つのか?」 「持つわけがない。あの牙と爪だぞ」 隊長は折れかけた大剣を拾い上げた。 「追うぞ」 「この状態で?」 「他に誰がいる」 斧戦士が刃の欠けた斧を持ち上げた。 「……了解」 槍使いの女が槍を構えた。穂先は曲がっている。 「行きましょう」 四人は——何も持たず、獣の後を追い始めた。北へ。王都へ。 --- **(第21章へつづく)**