# 第22章 散華 --- ## 激突 獣が跳んだ。丘までの距離を、一息で詰めてくる。 「左右に散れ!!」 獣は丘の頂上に着地した。地面が陥没する。金色の瞳が怒りに燃えている。逆立った毛が——一本一本が刃のように光っている。 「さっきより速い……!」 「怒らせたからだ……!」 --- ## 暴走 獣の動きが変わった。冷静さはない。前足を振り回す。地面が抉れる。木が根こそぎ吹き飛ぶ。 「近づけねえ……!」 獣は咆哮した。地面が震え、空気が震え、骨が震えた。 「毛が全部逆立ってる……! 近づいたら切り刻まれる!!」 --- ## 斧戦士の奮闘 斧戦士が横から走り込んだ。 「関係ねえ!!」 刃の欠けた斧を獣の後ろ足にぶちつけた。火花が散る。斧の柄にひびが入った。 もう一度振り下ろす。今度は関節の内側に刃が届いた。獣が後ろ足を引いた。 「効い——」 その言葉が終わる前に、獣の後ろ足が蹴り上げた。斧戦士は宙に浮き——地面に叩きつけられた。 「……まだ、死んで、ねえ……」 --- ## 拳闘士の覚悟 拳闘士が駆け寄った。 「立てるか!!」 「……無理だ。肋が何本かイった」 獣がこちらを向いた。拳闘士は斧戦士を引きずりながら後退した。 「隊長! こいつを頼む!!」 隊長が斧戦士を受け取った。拳闘士は——獣の正面に立った。素手で。 「来いよ……」 血まみれの拳を構える。獣が前足を振り上げた。拳闘士は横に跳び、隙を突いて鼻先に拳を叩き込んだ。 獣が首を振った。効いてはいない。だが——一瞬、気が逸れた。 「今だ!! 距離を取れ!!」 --- ## 槍使いの女 槍使いの女は——武器がなかった。槍は獣の尾に刺さったまま。 彼女は地面に落ちていた王都の兵の槍を拾い上げた。柄は短く、穂先も細い。 獣が拳闘士を弾き飛ばした。拳闘士は瓦礫の中に突っ込んだ。 獣が振り返る。金色の瞳が——槍使いの女を捉えた。 --- ## 最後の突撃 彼女は走った。獣に向かって。 「やめろ!! 退け!! 死ぬぞ!!」 隊長が叫んだ。聞こえていないのか、聞こえていて無視したのか。 彼女は槍を構え、獣の正面に踏み込んだ。毛が逆立つ。刃の壁。だが彼女は止まらない。 槍を突き出す。穂先が獣の顎の下——毛の薄い部分に届いた。突き刺さった。 獣が——吠えた。痛みの叫び。前足が——振り下ろされた。 彼女の体が——浮いた。地面に叩きつけられた時には、もう槍は手になかった。 獣が彼女を見下ろした。前足を持ち上げた。 「——やめろッ!!」 隊長が走った。間に合わなかった。 前足が——降りた。 獣は足を上げ、そのまま吠えた。咆哮が王都を震わせる。 隊長は剣を握ったまま立ち尽くしていた。獣がこちらを向いた。 背後で建物が崩れる音。悲鳴。炎。 獣が一歩、踏み出した。 --- **(第23章へつづく)**