# 第24章 幕間 --- ## 眠る父 父は玉座で眠っていた。 三つの世界を生き抜いた体は重く、呼吸は深い。久しぶりの、穏やかな顔だった。 長男が毛布をかけた。 「……父上、よほど疲れたんですね」 次男が小声で言った。 「そりゃそうだろ。洗濯で蒸発して、獣に踏み潰されて」 「次男、声が大きい」 「小声だって」 --- ## 兄弟の時間 四人は玉座の間の隅に集まって座った。父を起こさないように。 次男がぼやいた。 「なあ、思ったんだけどさ」 「何?」 「父上って、毎回マジなんだよな」 長男が首を傾げた。 「マジ?」 「世界に入ると全力なんだよ。俺の洗濯の世界でも、菌のじいさんとして本気で生き延びようとしてた」 長女が頷いた。 「私の世界でもそうでした。仲間の心配をしていたでしょう? 戻ってきてからも」 「そう、それ。普通さ、遊びだって分かってたら、もっと軽く流すじゃん」 末子が言った。 「父上は記憶を消して入るから。遊びだとは思っていない。本気で生きている」 「そうなんだけど……それ、すごくない?」 --- ## 偉大さ 長男が静かに言った。 「父上は……偉大な創造主です。世界を掌の上で作れる。でも——」 「でも?」 「自分の世界に飽きた。だから、私たちに託した」 次男が腕を組んだ。 「飽きたっていうけどさ、父上の作った世界、すごかったろ。あのデモ」 「ええ。光の糸から人が生まれて、海が広がって、街ができて……」 「でも最後は争って、滅んで、光が散った」 長女が言った。 「父上は何度もあれを見てきたのでしょうね。繁栄しては争い、同じ歌を繰り返す世界を」 「……それで飽きたのか」 「飽きたというより……寂しかったのかもしれません」 沈黙が落ちた。 次男が呟いた。 「……だから、俺たちに作らせてんのか」 「自分では見えないものを見たいんだと思います」 「俺たちが作る世界は、父上には予測できないから?」 「ええ。だから面白い」 --- ## それぞれの振り返り 末子が聞いた。 「長男兄。自分の世界はどうでしたか?」 長男は少し考えた。 「……正直、不安でした。最初に作る世界だから。穏やかすぎたかもしれない」 「でも父上は楽しんでいましたよ」 「そうだといいのですが」 次男が胸を張った。 「俺のは最高だったね」 「10分で全員死にましたけどね」 「だからそれがいいんだって!」 「父上は二度とやらんと言っていました」 「えー!!」 長女が微笑んだ。 「私の世界は……少し厳しすぎたかもしれません」 「少し?」 「反省はしています」 「反省の顔じゃないんだよなぁ……」 --- ## 末子の沈黙 末子は——黙って、眠っている父を見ていた。 次男が聞いた。 「末子、お前はどんな世界を作るんだ?」 「…………」 「おーい」 「聞こえています」 「じゃあ答えろよ」 末子は小さく息を吐いた。 「長男兄は安定を作った。次男兄は驚きを作った。長女姉は調和の中に厳しさを置いた」 「うん」 「私は——父上を映す世界を作ります」 「映す?」 「父上の癖。父上の選択。父上が、どう動くか」 長男が言った。 「それは……父上を試すということですか?」 末子は答えなかった。ただ、眠る父の顔を見つめていた。 「……そろそろ起こしましょうか」 「もう少し寝かせてあげましょう」 長女がお茶を淹れ始めた。湯気が、静かに玉座の間に広がった。 --- **(第25章へつづく)**