# 第9章 感想戦 --- ## 帰還 星々の光が床にこぼれる、ひどく広い間。 四人の子どもたちは、宙に浮かぶ光の窓をのぞき込んでいた。 レイアージュの街並みが、ゆっくりと霧のように薄れていく。 橋の上を歩く人々。笑い声。風に揺れる露店の旗。 それらが光の粒子となって散り、やがて静かに消えていった。 「……世界が消えていく」 長女が静かに呟いた。 「父上、どこにいたんだろう」 次男が窓を覗き込む。目がきらきらしている。 その時、背後で足音がした。 「ただいま!」 振り向くと、一人の男が満足そうな笑みを浮かべて立っていた。 タキシードではない、色あせたエプロン。 少しくたびれた、人の良さそうな顔。 だがその目には確かに——偉大なる父の光があった。 「父上!」 四人が駆け寄る。父は玉座にどっかりと腰を下ろし、子どものような笑みを浮かべた。 「いやあ、いい世界だった! 楽しかったぞ!」 --- ## 父を当てろ 次男がきらきらした目で声を上げた。 「父上! どこにいたの? ぼく、ずっと気になってたんだ!」 「さあ、どこだと思う? まずは当ててみろ!」 父はどこからともなく黒板を取り出し、犠牲者リストを書き出した。 **『暴動の犠牲者7名』** - 身元不明の老人 - 騒ぎを止めようとした若い労働者 - 火災に巻き込まれた商人(2名) - 逃げ遅れた移民 - 陸橋の下で発見された不明者 - 雑貨屋の店主 次男が真っ先に手を挙げた。 「『騒ぎを止めようとした若い労働者』! 父上っぽい!」 「ぶー。不正解」 長男が腕を組む。 「『身元不明の老人』かと存じます。歴史の曲がり角で静かに……」 「ぶー。不正解」 末子が肩をすくめた。 「『陸橋の下の不明者』? 誰にも気づかれず観察していた、とか」 「ぶー。不正解」 長女が静かに父を見つめた。 「……父上。そのエプロン。まさか……雑貨屋の店主?」 末子がぱちんと手を打った。 「ああ! "類まれなる運命"……みんなが通り過ぎる場所で、ずっと世界を見ていた!」 父は立ち上がり、両手を広げた。 「正解!」 次男が床に倒れ込んだ。 「えー!! 店主!? そんなの分かんないよ!!」 「だから面白いんだ!」 --- ## 感想戦 父は玉座に戻り、足を組んだ。 長男が一歩前に出た。 「父上。私の世界は……いかがでしたか」 父は天井の星座をひとつ入れ替えてから、満面の笑みを浮かべた。 「うむ! 面白かった!」 長男の肩から力が抜けた。 「毎日いろんな人間が来てな。缶コーヒーを買う労働者、新聞を取る官僚、パンを買う移民の親子……見ているだけで面白かった」 次男が身を乗り出した。 「AIを使った世界、どうだった?」 「あれは良い仕組みだった。人々の暮らしを支えながら、時に背中を押し、時に見守る。まるで見えない糸で街全体が繋がっているようだった」 長女が静かに頷いた。 「人とAIが、一緒に生きている世界でしたね」 「そうだ。秩序があり、でも完璧じゃなかった。格差が生まれ、争いが起きた。それでも人々は日常へ戻っていった。良い世界だったぞ、長男」 長男は深く頭を下げた。 「……ありがとうございます」 父は満足そうに玉座で体を揺らした。 --- ## 次の一局 父は黒板を取り出し、大きく丸を描いた。 **『長男の世界:完了!』** 「さて!」 父は次男を見た。次男はもう半分立ち上がりかけている。 「次はぼくの番だね!」 「ああ。楽しみにしているぞ」 「任せて! すっごい楽しいやつ、用意してあるから!」 四人の子が顔を見合わせる。 その笑いは、違う方向から同じ中心に集まる四本の風のようだった。 --- **(第10章へつづく)**